2022年11月、内閣主導で「スタートアップ育成5か年計画」が発表された。2027年をめどにスタートアップに対する投資額を10兆円に増やし、将来的にはスタートアップの数を現在の10倍にしようという野心的な計画だ。新たな産業をスタートアップが作っていくことへの期待が感じられる。このようにスタートアップへの注目が高まる中、『起業の科学』『起業大全』の著者・田所雅之氏の最新刊『「起業参謀」の戦略書ーースタートアップを成功に導く「5つの眼」と23のフレームワーク』が発売に。優れたスタートアップには、優れた起業家に加えて、それを脇で支える参謀人材(起業参謀)の存在が光っている。本連載では、スタートアップ成長のキーマンと言える起業参謀に必要な「マインド・思考・スキル・フレームワーク」について解説していく。

未充足の欲求を発見/検証できるモチベーショングラフの使い方Photo: Adobe Stock

車検証の住所を変更の際のモチベーショングラフ

 前回に続いて、モチベーショングラフの具体的な事例を解説したい。

 以前、都内に私が引っ越した際に、車検証の住所を変更したことがある。そのシーンについて当事者としてモチベーショングラフを書いてみた。申請書類も多く、役所に行く時間を取るのも大変で、未充足の部分が多いことが浮き彫りになった。

 下図の2つを見ていただくとわかる通り、シーンの順番でいうと、「警察署に行く(1回目)」「陸運局に電話する」「警察署に行く(2回目)」「陸運局に行く(1回目)」「法務局に行く」「陸運局に行く(2回目)」となる。

 警察署と陸運局に2回ずつ行くという大変な目にあった。その結果、1回目に警察署に行った時点からずっと落ち続けて、最後に少しだけ上がるというモチベーショングラフになった(2番目の図)。

「車検証の変更」の代行サービスがほしい

 最初から説明すると、1回目の警察署への書類提出は簡単だった。これはいけると思い、やや気分が上がった。しかし、その日は予定があったので、陸運局には1ヵ月半くらい経ってから行こうとしたら、実は警察署で取った書類が期限切れだったことが判明した。

 陸運局に電話をしたもののやはり取り直さなければならず、再度警察署へ。混雑している警察署で、再び2000円を支払って書類を申請せねばならず、非常に気分が落ちた。

 ようやく書類が取れたので、一気に済まそうと思い、陸運局へ。陸運局には初めて行ったのだが、看板が多すぎてどこに申請を出せばよいのかわからず、迷ってしまった。

 なんとか見つかったものの、また混んでいて整理券をもらうと19人待ち。忙しいのに19番目と言われて、さらに気分が落ちた。さらに、30分ほど待って、窓口にようやく呼ばれたら、車を会社名義にしていたので、謄本が必要だと言われる。そこでまたガクンと落ちる。

 そこから港区の法務局に行って、謄本を取得。謄本はすんなりと交付してもらえた。その足で、陸運局に戻ると3人待ち。19人待ちに比べたらマシかと思ったが、色々なところにたらい回しされ、手続きに30分かかり、ようやくナンバーを変更できた。

 半日以上を要したし、移動に時間も労力もかかった。もう二度とやりたくない、と思った。上図の通りドライバーには、コストがかかったことや周りから「早くしろ」と言われたことなどを書いた。

 この件で痛感したのは、「誰か代行をしてほしい」ということである。「車を渡したら、プレートを取ってきてくれて、翌日には運転できるという魔法の杖が欲しい!」と思った。そして、そうなるならば、1万円でも2万円でも払っても惜しくないと感じた。

 余談だが、実はこうした私と同様の思いの人が多いのか、後からこの車検証変更についての代行サービスがあることが判明した。代行で全て任せるならば3万8000円。やや悩ましい値段設定だが、全く時間が取れない人もいるのでそのくらいでも需要はあるのだろう。

 今回の件にはソリューションが存在したが、企業側はこのようなユーザーの未充足に対して、ソリューションが存在していないところへ価値提案をしていくことが必要である。モチベーショングラフは、それを発見/検証ができるフレームワークである。

(※本稿は『「起業参謀」の戦略書ーースタートアップを成功に導く「5つの眼」と23のフレームワーク』の一部を抜粋・編集したものです)

田所雅之(たどころ・まさゆき)
株式会社ユニコーンファーム代表取締役CEO
1978年生まれ。大学を卒業後、外資系のコンサルティングファームに入社し、経営戦略コンサルティングなどに従事。独立後は、日本で企業向け研修会社と経営コンサルティング会社、エドテック(教育技術)のスタートアップなど3社、米国でECプラットフォームのスタートアップを起業し、シリコンバレーで活動。帰国後、米国シリコンバレーのベンチャーキャピタルのベンチャーパートナーを務めた。また、欧州最大級のスタートアップイベントのアジア版、Pioneers Asiaなどで、スライド資料やプレゼンなどを基に世界各地のスタートアップの評価を行う。これまで日本とシリコンバレーのスタートアップ数十社の戦略アドバイザーやボードメンバーを務めてきた。2017年スタートアップ支援会社ユニコーンファームを設立、代表取締役CEOに就任。2017年、それまでの経験を生かして作成したスライド集『Startup Science2017』は全世界で約5万回シェアという大きな反響を呼んだ。2022年よりブルー・マーリン・パートナーズの社外取締役を務める。
主な著書に『起業の科学』『入門 起業の科学』(以上、日経BP)、『起業大全』(ダイヤモンド社)、『御社の新規事業はなぜ失敗するのか?』(光文社新書)、『超入門 ストーリーでわかる「起業の科学」』(朝日新聞出版)などがある。