コロナ禍をきっかけに全社で業務改革を行い、社員の残業や休日出勤を減らして、公休や有給休暇がしっかり取れるようになった企業。しかし「残業がなくなると、給料が足りない」という不満が……。「副業OKになったのだし、週末は社内の別部署でアルバイトをしたい」という若手社員が現れた。そもそも同じ会社でダブルワークをすることは可能なのか。もし可能な場合、給料はどのように計算されるのだろうか?(社会保険労務士 木村政美)
地方都市にある物流会社で、従業員数は200人。
<登場人物>
A:地元の専門学校を卒業後、甲社ではシステム課(メンバー数10人)に所属、主に物流システムの管理業務を行っている28歳。一人暮らしで趣味はサーフィン。
B:システム課長でAの上司。35歳。
C:総務部長で人事・総務の責任者。45歳。
D:今年7月から、甲社の顧問社労士に就任した。
業務改革で「しっかり休める会社」に。しかし社員の手取りは減り……
8年前、Aが入社した頃の甲社は、会社の業績が好調な分、どの部署も残業が多く、システム課も月平均で50時間以上の残業は当たり前だったし、土曜日や祝日に出勤することも珍しくなかった。社員たちは「残業が多くてしんどい」とぼやいていたが、その割に定年退職を除く退職者が少なかったのは、残業代をもらっていたので、同じ地域の他企業に比べて手取り給与が多かったからである。
しかし3年前、新型コロナウイルスの影響で業績が下がったことと、同時期に労働基準監督署から長時間労働に対する指導を受けたことがきっかけで、甲社長は事業内容を見直し、1年かけて全部署の業務改善と働き方改革を進めた。その結果、社員の残業や休日出勤は徐々に減っていき、今年の4月にはほとんどなくなった。公休や年次有給休暇をしっかり取れるようになったのは良かったが、その代わり残業代がなくなった分、給与の手取り額は減った。
8月下旬の昼休み。Aが休憩室でコンビニのおにぎりを食べていると、隣で愛妻弁当を食べ終えたB課長が話しかけてきた。
「今日もおにぎり2個だけか。若いのにそれだけじゃ足りないだろう。弁当でも買えば?」
「4月から残業ナシで給料が減ったから、もうカツカツです。コンビニ弁当はぜいたく品になったし、サーフィンもお預け。何かバイトでもしようかなあと思ってるんですが……課長、確かウチの会社ってバイトOKですよね?」