永田町屈指の論客なのに
経済と党改革の質問にはカンペ

 3つ目の不安が、経済や裏金議員問題といった、政策通の石破氏でも、比較的、専門分野とは言い難い分野で質問が飛ぶと、手元のメモや原稿、いわゆるカンペに目を落とす機会が増えるという点だ。

 石破氏は経済対策について、賃上げと投資がけん引する「成長型経済」を継承し、デフレからの完全脱却を目指すとしているが、具体的な道筋は示せていない。焦点の金融政策では、10月2日、日銀の植田和男総裁と会談した際、「追加の利上げをする環境にない」と述べるにとどまった。

 日銀の独立性を尊重し、緩やかに金融緩和からの正常化を支持する立場は理解できるものの、どのように「国民(の暮らし)を守るのか」への言及ははっきりしない。
 金融の専門家ではなく、あくまで政治記者の目から見ればの話だが、積極財政路線の高市氏や「1年で改革を進める」と明言した小泉進次郎氏(43)のほうが、はるかに明快で期待が持てていい。

 来たる総選挙の焦点になる裏金議員の問題に関してはもっと良くない。石破氏は、「選挙区でどれくらいの支持をいただいているのか把握しながら、公認するか否かを決定する」と述べるにとどめ、不十分と批判されてきた実態調査についても言及を避けている。

「旧安倍派の皆さんを敵に回すから踏み込んだことは言えないよね。ただ、共同通信が実施した世論調査で、石破内閣の支持率は50%ちょっとだったでしょ? 岸田内閣発足時(※55.7%)や菅内閣発足時(※66.4%)より格段に低いのは、そういう煮え切らないところに原因があるんじゃないの」(前述の高市氏を支持した衆議院議員)

 さらに個人的には、裏金議員や「政治とカネ」の問題よりも、石破氏が得意なはずの地方創生にも不安が残る。

 初代の地方創生相でもある石破氏は、首相就任会見で「人口最少県の鳥取をふるさとに持つ者として、強い決意を持って取り組んでまいります」と強調してみせた。

 では聞くが、石破二朗という鳥取県知事を父に持ち、これまで片山善博氏や平井伸二氏といった歴代の敏腕知事とともに鳥取県のために汗を流しながら、なぜ毎年3%前後の人口減少を食い止められなかったのか? 鳥取県でこれまでできなかったことが果たしてこれからの日本で可能なのか? こうした疑問が湧いてしまう。

 振り返ってみれば、多くの国民が注目した自民党総裁選挙は、「The lesser of nine evils」(9人のうち消去法的な要素が積み重なった「悪さ加減の選択」)だったように感じている。

 総裁選挙が告示されてから衆議院解散が決まるまでの間の最大の勝者は、旧岸田派をまとめて石破氏を勝たせ、10月1日、満面の笑みを浮かべて首相官邸を去った新たなキングメーカー、岸田氏だったと筆者は思う。

 その意味では、石破氏はまだ完全な勝者とは言えない。これまでの国民人気で総選挙をどうにか大敗することなく乗り切った後が本当の勝負である。