職場での声掛けとしてビジネスシーンでよく使われる「お疲れさま」という言葉。相手を労う気持ちを表しているはずが、実は思わぬネガティブな影響を与えているかもしれない。では、どう言えばいいのだろうか。書籍『一流ファシリテーターの 空気を変えるすごいひと言――打ち合わせ、会議、面談、勉強会、雑談でも使える43のフレーズ』の著者で人気ファシリテーション塾塾長の中島崇学氏が、3万人に「人と話すとき」の対話術を指導してきた経験をもとに、やや聞きなれない表現を提案する。日本の伝統的な考え方に基づいた言葉が、職場にポジティブな変化をもたらすかもしれない。

明るい職場Photo: Adobe Stock

「お疲れ様です」では、疲れを意識させてしまう

 ビジネスシーンでは、「お疲れさま」という言葉が日常的に飛び交っています。朝の挨拶、メールの締めくくり、会議の終わり...どこにでも「お疲れさま」が顔を出します。

・朝一番のメールで「おはようございます。本日もお疲れさまです」
・夕方5時を過ぎると「お疲れさまです」の嵐
・プロジェクト終了時に「長期間お疲れさまでした」

 これらの「お疲れさま」は、相手への配慮から生まれた言葉です。しかし、この言葉が潜在意識に与える影響は想像以上に大きいのです。

×「お疲れさま」

 この言葉は、確かに労いの気持ちを表現します。しかし、「疲れる」という否定的なニュアンスが、知らず知らずのうちに仕事に対するネガティブな印象を強化してしまいます。

無意識のポジティブなイメージを生むフレーズ

 そこで、あまり聞きなじみがないかもしれませんが、次のように声掛けしてみてはどうでしょう。

○「お楽しみさま」

「お楽しみさま」は聞きなじみのない言葉かもしれませんが、仕事や活動に対してポジティブな予期を生み出します。

 クリエイティブな仕事をする業界やスタートアップ、接客業などの一部で使われている言葉のようです。この言葉を聞いた相手は、最初は違和感を感じながらも無意識のうちに仕事の楽しさや充実感を意識するようになります。

未来を先取りする「予祝」の力

「お楽しみさま」という表現は、日本の伝統的な「予祝」の考え方に通じます。予祝とは、望ましい未来を先取りして祝うことで、その実現を促す習慣です。

1. 新規プロジェクト立ち上げ時に成功祝賀会を予定する
2. 年度始めに全社目標達成パーティーの日程を決める
3. 商談前に「成約後の打ち上げ」について話す

 これらの行動は、チームに明確な目標イメージを与え、その実現に向けた強い動機づけとなります。

言葉で職場を明るくする

「お楽しみさま」の精神を日常のビジネスシーンに取り入れることで、職場の雰囲気を大きく変えることができます。

朝のメール
×「おはようございます。本日もお疲れさまです」
○「おはようございます。本日も実りある一日をお楽しみください」

夕方の挨拶
×「お疲れさまです。もう少しですね」
○「今日も充実した一日をお楽しみさまでした。明日も楽しみですね」

プロジェクト終了時
×「長期間お疲れさまでした。ようやく終わりましたね」
○「長期間、素晴らしい成果を生み出すプロセスを楽しんでいただき、ありがとうございました。次のチャレンジも楽しみですね」

「お楽しみさま」が生み出す好循環

「お楽しみさま」を意識的に使用することで、以下のような好循環が生まれます:

●仕事に対するポジティブな感情の醸成
●チームのモチベーション向上
●創造性とプロダクティビティの向上
●職場の雰囲気改善
●離職率の低下と人材定着

 ビジネスの世界では、効率や成果が重視されがちです。しかし、それを支えるのは人の心です。「お楽しみさま」という言葉を意識的に使うことで、仕事に対する前向きな姿勢を育み、結果として個人とチームのパフォーマンス向上につながります。

 あなたの職場でも「お楽しみさま」を試してみませんか? 小さな変化が、大きな変革の始まりとなるかもしれません。