「売り上げを下げたほうが利益が出るなんて」「『無収入寿命』という概念に目からウロコ」「あっというまに利益が6000万円増えた」……。刊行後、読者となった経営者から続々とこうした声が寄せられた『売上最小化、利益最大化の法則』。著者の木下勝寿氏が経営する北の達人コーポレーションの「高利益率の経営」の秘密とは?(文/上阪徹、ダイヤモンド社書籍オンライン編集部)
小さな市場を切り拓く
北の達人コーポレーションという会社をご存じだろうか?
Eコマースを中心に事業を展開し、高い利益率で株式市場からも評価されている企業だ。
代表の木下勝寿氏は1968年生まれ。リクルート勤務後、2000年に独立。2002年に北の達人コーポレーションの前身となる企業を立ち上げ、2012年に札幌証券取引所アンビシャス市場に上場。翌年から札証本則市場、東証二部、東証一部と史上初の4年連続上場を果たす。2019年には、木下氏が「市場が評価した経営者ランキング」第1位(東洋経済オンライン)にも選ばれた。
そんな木下氏の経営メソッドが詰まっている『売上最小化、利益最大化の法則』はロングセラーになり多くの読者から支持されている。いったい木下氏の経営のどこがすごいのだろうか?
大きな特色は、何より実践的であること。そして、既成概念を打ち砕かれるところだ。例えば、あえて小さな市場での勝負する経営手法がその1つだ。
そして、小さな市場を切り拓くヒントがあった。これこそ。小さなマーケットで勝負する狙いだった。
小さくとも、新しい市場を生み出したかった
木下氏が経営する北の達人コーポレーションは、もともと北海道の特産品を仕入れてネット販売を行う会社だった。しばらくすると、地元企業から「うちの商品も扱ってほしい」という声が増えていく。
その一つが、「オリゴ糖でつくられた健康食品」だった。胃腸の働きを助け、便通が良くなるという。北海道の特産品に該当するかどうか、と一度は断りを入れるも、相手の営業マンはなんとか試して欲しいという。
根負けして健康食品を預かった木下氏は、便秘気味だった社員2人に試してもらった。すると、効果はてきめんだった。
考えに考えた末、一連のエピソードをそのままお客様に伝えることにした。
「オリゴ糖でつくられた健康食品を扱って欲しいと言われました」から始まる一部始終をメルマガに書き、お客様に送ったのだ。(P.140)
すると驚くべきことに、ドカンと注文がきた。便通に悩む人は想像以上に多かったのだ。既存客の女性の約4割が便通で悩んでいたことを知った。熱いお礼のメールがやってきた。北海道のグルメも喜ばれたが、便通改善の喜びの声は桁違いだった。悩みが解決した喜びとは、こんなに大きいものなのか、と感じた。
これが後に、悩み解決型の美容・健康食品の自社開発に注力するというビジネスモデルにつながる。健康食品や化粧品は、ほぼ1か月で使い終わる。気に入ってもらえれば、毎月の購入につながる。高品質商品でロングセラーを狙う事業だ。今や定期購入による売上比率は約7割。これが利益を生み出す源泉になっている。
ただ、このビジネスモデルがすぐにできたわけではない。木下氏はもともと競合と争うのではなく、今までになかった新しいものや市場をつくりたいという気持ちを持っていた。リクルート時代、求人広告の営業担当をしていたが、自分が受注しても、競合の営業が受注しても、広告費は変わらない。言ってみれば、大きく見ればGDPは変わらない。
そういうところにパワーを割くのではなく、今までになかった新しいものを世に生み出すことに力を注ぎたいと考えるようになっていったのだ。まさに、小さくとも、新しい市場である。
「びっくりするほどよいもの」ができたら販売する
実際、会社の基本方針には、次のメッセージがある。
「新規事業、新商品開発を行うときは必ずGDPが上がること」
オリゴ糖からつくった健康食品のようなものはないか。さまざまな健康食品を取り寄せ、同じように社員が試してみるも、納得できるものには出合えなかった。
自社で企画し、OEM(相手先<委託先>ブランド製造)受託企業に試作品をつくってもらう。「びっくりするほどよいもの」ができたら販売する。それが悩み解決型の美容・健康食品を取り扱う「北の快適工房」のはじまりだ。
北海道の特産品のネット通販が本業、「北の快適工房」は副業としてスタートした。(P.143)
これが後に本業になっていくのである。開発された商品は、次々にヒット。化粧品「ディープパッチシリーズ」は、ギネス世界認定・世界売上No.1となった。小さな市場ながら、そこで圧勝してきたのだ。
その商品開発は「お客様の悩み」から始まる。極めてユニークな商品開発手法だ。
たとえば、年を重ねると目の下がだるんとしてくる。だるんとした状態をそのままにしておくと、老け顔になる。この悩みを解決する商品ができないかを考え、「目の下の悩み解消市場」を設定する。
次に、悩みを解消する商品形態を考える。(P.144-145)
ここから実際に、「アイキララ」というクリームが生まれているが、それまでにサプリメント、ジェル状の美容液など、さまざまなサンプルをつくってモニター調査をしている。そこで、最も評価が高かったのがクリームだったのだ。
ポイントは最初から商品形態が決められていないこと。悩みを解決するなら商品形態は問わない。実はこの商品領域は、「アイクリーム」と呼ばれていた。しかし、それは後から分かったことだった。
さらに「目の下の悩み解消市場」という従来なかったニッチ市場の製品なので、大手メーカーとは競合しない。小さな市場で勝負するとは、自ら小さな市場をつくり上げることなのだ。そして、つくった市場で圧勝する。
こんなビジネスモデルがあるのである。
ブックライター
1966年兵庫県生まれ。89年早稲田大学商学部卒。ワールド、リクルート・グループなどを経て、94年よりフリーランスとして独立。書籍や雑誌、webメディアなどで幅広く執筆やインタビューを手がける。これまでの取材人数は3000人を超える。著者に代わって本を書くブックライティングは100冊以上。携わった書籍の累計売上は200万部を超える。著書に『彼らが成功する前に大切にしていたこと』(ダイヤモンド社)、『ブランディングという力 パナソニックななぜ認知度をV字回復できたのか』(プレジデント社)、『成功者3000人の言葉』(三笠書房<知的生きかた文庫>)ほか多数。またインタビュー集に、累計40万部を突破した『プロ論。』シリーズ(徳間書店)などがある。