米大統領選挙後の米国の経済安全保障政策は、ハリス氏が雇用維持、トランプ氏は関税強化と重点は違うが、どちらの政権となっても強化される。中国との覇権争いという構造的要因があり、グローバル化の流れは変わって日本企業にとっても米国は「自由で開かれた市場」ではなくなる。特集『「もしトラ」「もしハリ」損得勘定』(全11回)の最終回では、米大統領選の結果が米国や日本の経済安全保障に与える影響を検証する。(地経学研究所所長、東京大学公共政策大学院教授 鈴木一人)
中国との覇権争いを優先
「自由で開かれた市場」でなくなる米国
米大統領選挙は投票日まで約2週間となる中でどちらが勝つのかはいまだ不透明だが、一つだけはっきりしていることがある。それは、民主党候補のハリス副大統領、共和党候補のトランプ前大統領のどちらが勝っても、米国の経済安全保障政策は強化され、自由貿易を基調とした国際秩序は戻ってこないということだ。
ハリス氏とトランプ氏の間にはさまざまな政策の違いはあるが、経済安全保障については、両者の政策の輪郭がはっきりしていないとはいえ、向いている方向性は同じといってよいだろう。
つまり、米国の経済安全保障政策は、「もしトラ」や「もしハリ」にかかわらず、中国との覇権争いという構造的問題が背景にあり、過去30年間のグローバル化の流れが完全に変わったことに起因するものだ。
日本企業にとっても、日本製鉄の「米USスチール買収」問題に象徴されるように、米国は「自由で開かれた市場」ではなくなるといっていい。