中小企業同士のM&Aでトラブルが頻発していることを受けて、会社を売りたいオーナー経営者と買い手企業の間に立ってM&Aの成立を支援する、M&A仲介会社の存在に注目が集まっています。そこで、業界の内情に迫った特集『沸騰!M&A仲介 カネと罠』を再配信します。(記事初出時:2022年2月9日 ※記事内容は初出時のまま)
M&A仲介は、売り手と買い手の両方から報酬を得る「両手取引」が基本だ。両手取引を巡っては、一方の利益の最大化を図ればもう一方の利益を毀損する利益相反が、以前から指摘されている。これにM&A仲介の当事者たちはどう反論するのか。特集『沸騰!M&A仲介 カネと罠』(全15回)の#6で業界トップ3の経営者に問うた。(ダイヤモンド編集部 重石岳史)
両手取引のM&A仲介は利益相反か
河野発言に「御三家」トップが反論
「M&A専門業者から示された企業価値は明らかに低く、自社の正当な価値が分からないままプロセスが進んでしまった。業者は効率性を最優先しているように感じた」(東北の製造・販売業経営者)
「M&A後に譲渡企業の売り上げの大半が期待していた事業によるものと異なることが判明。M&A専門業者にデューディリジェンス(買収監査)の過程で譲渡企業の事業内容を把握できなかったかと聞いたところ『聞かれなかったから答えなかった』と回答された」(九州の製造業経営者)
これらはM&A仲介会社を通じ、実際に事業承継を行った中小企業経営者の声である。
自社を売る者にとっては一生に一度あるかないかの一大事であり、買う者にとっても多額の資金を伴う大勝負だ。その売り手と買い手をマッチングさせるM&A仲介会社への少なくない不満が、中小企業庁にも寄せられている。
そうした不満を生み出す構造的な問題が、「両手取引」に内在していると指摘されて久しい。この問題に注目が集まったのは2020年末。当時、規制改革担当大臣だった河野太郎氏の一声がきっかけだった。
「仲介者にとってみれば、一回限りのビジネスにしかならない売り手に寄り添うよりも、今後もビジネスができる買い手に寄り添う方が得になります。双方から手数料をとる仲介は、利益相反になる可能性があることを中小企業庁も指摘しています」(河野太郎公式サイト<20.12.18>より抜粋)
つまり河野氏は、M&A仲介は買い手の利益を優先するインセンティブが働きやすく、売り手の利益を損なう恐れがあると言及したのだ。
この指摘には、売り手もしくは買い手の片側でM&A助言を行う、あるファイナンシャルアドバイザー(FA)も「両手取引は欧米ではあり得ない。買収価格の客観性や公平性が保てないからだ。日本のM&A仲介業者だけが、双方から手数料を二重取りできる“ぬれ手で粟”の商売を許されるのはおかしい」と同調する。
では、M&A仲介の当事者たちはこの批判をどう受け止めているのか。
日本M&Aセンター、M&Aキャピタルパートナーズ、ストライク。M&A仲介業界を代表する「御三家」のトップに疑問をぶつけたところ、意外な答えが返ってきた。