僕の場合はですね、パッと見た瞬間にいちばんいい手が浮かんでくる確度は95%くらいだと思う。大山康晴さんは85%。それから、かつて羽生善治さんは70%と言っています。羽生さんは謙遜しすぎだと思うけれども。勝負はやはり感性ですね。見た瞬間、この景色だったらこれがいちばんいいんだというのが浮かんでくる。

 問題は、最初に浮かんで「これがいちばんいい手だ」と思ったけども、少し考えたとき、「あ、これもいい手だな」と思える局面がときどきあることです。僕の経験則で、最初に浮かんだ手と後から考えた手の二者択一の場合は、かならず直観で浮かんだ手を選んで勝っています。

 つまりね、後から考えた手というのは、どちらかというと自分の都合のいいように、いいようにと考えた手で、僕の言葉で言うと「勝手読み」。こういうことは人生でもあることです。自分の都合のいいように考えていったらけっこう失敗しますね。

茂木 深い話ですね。結局、人工知能と人間の脳の構造の最大の違いはここなんですね。人工知能は、ありとあらゆる手を検索して最適解を見つけてくる。いっぽう人間は逆で、最適解が最初に直観でわかって、それを検証するんですね。