景色を合わせる初期の対話を行う

 まず、初期の対話から。仕事を任せる/任せられるときは、依頼する人と受ける人とで、その仕事の背景、目的、成果物イメージ、関係者、要求事項、活用可能なリソース(ヒト、モノ、カネ、設備、能力、情報など)などの景色を合わせる対話の場を持とう。
 
なるべく早い段階でそのための対話を行い、認識のズレを防ぐとともに、お互いに相談しやすい関係性を構築しておきたい。

 加えて重要なのが、任せる理由だ。
「あなたのためになると思って」「あなたなら得意だと思って」などの大げさな誇張はいらない。

「別のプロジェクトが炎上中で、こっちまで手が回らなくて……」

「この仕事を引き受けてもらえると、とても嬉しいです!」

 現状や感情を素直に伝えよう。多発すると相手も呆れるが、人は基本的に人の役に立ちたい生き物である。もちろん、感謝やお礼は忘れずに。

制約条件の景色合わせをする

 一方で、当然ながら相手にも都合がある。その仕事に時間や労力を潤沢に割いて対応できるとは限らない。今までの経験や体験でカバーできない未知の領域に対して不安もあるだろう。
 それらの不安を取り除くべく、こちらがお願いしたい内容と、相手の制約条件を擦り合わせる。とくに意識したいのが、後者だ。

「どんな条件なら、引き受けていただけそうですか?」

 このように、こちらから積極的に条件を聞き出す。すると、このように答えてくれるかもしれない。

 ・毎日1時間程度の稼働で仕上げられる程度の成果物で許容してほしい
 ・必要な知識や技術を身につけるためのレクチャーを受けたい
 ・集計など細かな作業をサポートしてくれる人をつけてほしい
 ・社外の人にも相談したい

 これらの制約条件を聞き合い、伝え合う。他には、もちろんプライベートな事情の伝達と理解も、後で揉めないために不可欠だ。

 ・家庭の事情があるため、出張が発生しない前提で対応したい
 ・作業量が増えるため、テレワークで対応したい
 ・これ以上の残業は体力的にも厳しいので、複数名で対応させてほしい

 仕事を頼む側は、このような制約条件と丁寧に向き合おう。

「0か100か」以外の選択肢を持たせる

 相手も「引き受けるか、断るか」、つまり「0か100か」の選択肢しかないと思っているから、条件反射的に断ってしまう(または無理をしてすべて受け、抱え込んでしまう)場合もある。

「70」「50」「30」だけ任せる選択肢も提示したい。裏を返すと、仕事を引き受ける側はこういったタイミングで、たとえば「リモートワークさせてもらえたら時間に余裕ができるので引き受けられます」など、働き方やスキルアップの要望を伝えやすい。

 もちろん、突発かつ急ぎの作業などで、相手の要望にすべて応えるのは難しい場合もあるだろう。しかし、日頃から丁寧な対話と景色合わせをしておけば、お互いの事情や仕事のスタイルへの理解が深まり、ベースとしての信頼関係を損なわずに、多少の融通が利くようになっていくはずだ。

 一歩踏みだす!

 ・仕事を任せる/任せられる際は、初期の対話を丁寧に行う
 ・お互いの制約条件を伝え合う

(本稿は、書籍『組織の体質を現場から変える100の方法』の内容を一部抜粋・編集して作成した記事です)

沢渡あまね(さわたり・あまね)
作家/企業顧問/ワークスタイル&組織開発/『組織変革Lab』『あいしずHR』『越境学習の聖地・浜松』主宰/あまねキャリア株式会社CEO/株式会社NOKIOO顧問/プロティアン・キャリア協会アンバサダー/DX白書2023有識者委員。日産自動車、NTTデータなどを経て現職。400以上の企業・自治体・官公庁で、働き方改革、組織変革、マネジメント変革の支援・講演および執筆・メディア出演を行う。『チームの生産性をあげる。』(ダイヤモンド社)、『職場の問題地図』(技術評論社)、『「推される部署」になろう』(インプレス)など著書多数。