参加するのは国ではなくアーティスト
芸術祭に国境は関係ない
――先日、大地の芸術祭へ行ってきましたが、貯水塔にある、ニキータ・カダンさんの作品が素晴らしかったです。
実は、ニキータさん(※ウクライナのアーティスト)が作品を設置しに来日するタイミングは、ウクライナが国民を国外に出ることをストップしたときでした。ロシアとの戦争が始まってから、国を脱出する人が急増したんですね。
それで、彼から夜中の3️時ごろ、電話が来ました。隣国で飛行機に乗るためにバスに乗って国境へ向かっている。でも国外へ出る許可が得られる見込みがない。(来日は)だめかもしれない、と。
急いでウクライナの日本大使館などいろいろなところに連絡してみましたが、そもそもロシアが出るようなイベントに参加するなんてことは到底、許可できない、無理だ、と。それで、「私たちの芸術祭は国で選んでいるのではない、アーティストで選んでいるんだ」と、必死に説明しました。いろいろな国の利害関係はありますが、皆、それぞれアーティストして参加し、一緒に作り上げている。厳しいこともたくさんありますが、その思いは守り続けています。
――ニキータさんはどうなったのですか?
その後の夕方17時ごろ、再びニキータさんから電話がありました。捕まる可能性もあるのでガソリンスタンドの陰に隠れながら電話をかけてくれていました。そして「どうやら許可が取れたようだ」と。
――北川さんのウクライナ関係者への働きかけが功を奏したのでしょうか。
それはわかりません。でも無事に彼は来日して素晴らしい作品を制作してくれた。彼だって葛藤はあります。アーティストの一方で、ウクライナ国民として兵役の適齢期でもあるので、声がかかれば戦争に出ようと思っている。日本でロシアのアーティストと一緒になるのは思うところはあるけれど、芸術祭の意図はわかってくれていて、文句を言わずにやってくれている。相当、優秀なアーティストです。
越後妻有里山現代美術館では、ニキータさんの「大地の影」などの作品の横に、ロシアのターニャ・バダニナさんによる、白い服を並べたとても美しい作品が飾られています。私はどうしてもニキータさんの隣にしたかった。ターニャさんだって、本当は仲良くやりたかったはずです。自分の国に思うところはあるでしょう。でも現状を受け入れてやるしかない。その上で最善を尽くす。
これほどのレベルのものはそうそうありませんが、芸術祭の開催においては、ひっきりなしに問題が起きています。
――「大地の芸術祭」(2024年7月13日~11月10日)、「北アルプス国際芸術祭」(2024年9月13日~11月4日)、「南飛騨Art Discovery」(2024年10月19日~11月24日)と、複数の芸術祭が今、並行して開催されています。失礼ですが北川さんはお若くはないので、お体がもつかどうか心配ではあります。
もっていないですよ(笑)。お医者さんには無理をするなとはいわれていますが、週の5日以上は地方を回っていて、ほぼ、始発電車と最終電車ですよ。とにかく準備がものすごく大変なんです。いろいろな地域へ行って何度も説明したり説得したりしなければなりません。
――芸術祭が始まってしまえば、北川さんの肩の荷もだいぶ降りますか。
いやあ……。次から次へと問題は出てくるので、気が楽になることはないですね(笑)。でもまあ、やれてはいます。ストレスはすごいですが(笑)。
こうしたパブリックアートや芸術祭は1996年から手がけているので、約30年やっているわけですが、今も机上で指示を出すのは好きではなく、現場に行かないと落ち着かないんです。チャンスがあれば自分で参加者の方々へ直接、解説したい。ですので、ツアーを組んでくださり日程さえ調整できれば、自分が作品を解説しますよ。このようなことをしているので、家に帰ったら頭真っ白で、バタンキューなんです。