賞味期限が切れても
社外には分からない

 しかしながら、体力、気力、知力のうちのどれかが、賞味期限内の状況から逸脱し始める。一番早いのは、体力面である。不健康なレベルにまではいかずとも、いろいろな会合に出るのが億劫になったり、出張なしで済ませたくなったりし始める。

 気力の衰えが来る可能性もある。自分が達成すべき重要なミッションが、成功裏に終わった場合などだ。懸案だった事業の清算が終了した、経営資源を投入した新規事業で利益が出る目算が立ったなど、自分が当初掲げた重要案件が決着すると、一気に気力が低下することがある。

 また、事業レベルと全社レベルの視点のピント合わせがだんだんできなくなったり、次世代への変化の道筋が見えなくなったりするなど、知力が大きく低下し始める人もいる。

 以上のような兆候があれば、賞味期限切れということになる。経営者のもっとも良い時代は終了するので、このときこそが、トップ交代の一つのチャンスだ。しかしながら、この段階では、業績的にも問題はなく、組織の状態も健全である。

 むしろ、これまでの努力によって業績や組織は右肩上がりの状態にあり、傍目には辞めるべき要素は全くない。指名委員会の社外取締役から見ても、文句を言うべきことは一つもない。賞味期限切れであることを自覚するのは、本人およびその側近だけなのである。

 ところが、側近は今の経営者がトップとしてい続けることが自分にとって大きなメリットになる。そのため、たとえ賞味期限切れの兆候を認識していたとしても、「すばらしい」と言い続ける。だから、賞味期限切れによって退任を決められるのは、当人だけということになる。よほど自己認識能力が高く、社会的地位に拘泥しない卓越した偉人だけが、賞味期限切れをもって退任することになる。

消費期限内は責任感でやりすごす
「それっぽく話せる」が実際は……

 さて、賞味期限が切れたからといって、問題が発生するわけではない。まだ十分に消費できるのである。この段階における経営トップは、壮健でなくとも健康で、トップの業務を遂行するのに何も問題はない。ただ、行動量が少し減るだけだ。

 気力においても、使命感はなくなったとしても、経営者としてやるべきこと、すなわちステークホルダーの要求をしっかりと理解し、それらを満たせるように全体を差配するべく努力をする。