消費期限が過ぎているのに
トップの座に固執する

 厄介なのは、現実はすでに消費期限切れになっている経営トップが数多く存在していることである。健康不安の経営トップは正直困る。いざというときに頼りにならない。

 気力はさらに問題である。何のやる気もなく、使命感も責任感もなく、後継の候補者が見つからないのをいいことに、ただただ長くトップに居座り続ける人がいる。または、立派な経営者として社史に残ることだけを目的にしている人もいる。気力が消滅しているか、虚栄心のみに支配されている状態といえる。

 もっとも厳しいのは知力である。空間のピント合わせ能力も時間的感覚も消滅し、“よきにはからえ”状態になってしまっている。こうなると、経営トップとしては、完全に資格を失い、社内の信頼も失い始めるから、徐々に業績にも影響が出始め、ここで初めて、そろそろやめたらどうかという話が出せるようになってくる。

 本当はもっと前に辞めてもらわなくてはならなかったのだが、ともかく、このような人には、しっかり退任後の花道を作って、気持ちよくやめてもらうことが最重要課題となる。

体力と虚栄心がありあまる
消費期限切れトップは最悪

 とはいえ、前述のような経営トップは被害がそれほど多くないという意味で、「期限切れ」の一群の中ではまだマシなほうだ。実は、リスクマネジメントの観点から一番問題の大きいのが、体力面では壮健で元気いっぱい。気力面では強烈な虚栄心に満たされており、知力において、空間把握、時代把握ともにピンボケ状態のトップである。

 このような人がトップの場合、現場の現実を理解せず、虚栄心から“1兆円企業にするぞ!”などといった大きな目標を掲げ、空間観・事業観がピンボケのために、すでに終わっている過去の有名企業を買収するといった、迷惑きわまりない意思決定をして、当人の虚栄心を満たす。

 その大きな決断は、ほどなく明確な失敗となって会社に大きな損害を与える。または不祥事が起きた際に、的外れな対応を指示して、社会から大きな反感を買う。実は企業の大失敗の多くが、虚栄心に支配された、壮健で、知力においてピンボケな経営トップによって営々と築かれているのである。

 このような人は、自分の知力(空間感覚、時間感覚)が高いと過信しており、気力についても(本当は虚栄心なのに)使命感に満たされていると思い込んでいる。もちろん、絶対に自分から辞めるとは言わないから、この消費期限切れの経営トップにどうやって潔く辞めてもらうのかを考えることこそが、指名委員会等のもっとも重要な仕事となる。

 かように、経営トップの引き際というのは扱いが本当に難しい。ただし、体力、気力、知力の3つの観点から冷静に判断すれば、経営トップがどのレベルにあるかを評価すること自体はさして難しくないともいえる。

 ここまで読んでくださった方も、ぜひ自社のトップを評価してみてほしい。もし最後に述べたような壮健で、虚栄心に満ちあふれ、知力に衰えのあるトップで、かつ辞める気配がなく、社外取締役にもそのトップの首に鈴をつける勇気がないと見えるなら、早めに転職を考えるのが良いだろう。

(プリンシプル・コンサルティング・グループ株式会社 代表取締役 秋山 進、構成/ライター 奥田由意)