時代の変化に取り残されないよう、教育も変わらなければいけない。2025年の中学入試を前に、教育ジャーナリストの後藤健夫氏が注目する教員は、広尾学園で一世を風靡(ふうび)した木村健太氏。広尾学園の「医進・サイエンス」での経験を基に、を新天地で思いの丈をぶつけるべく始めた試みを見ていこう。 (ダイヤモンド社教育情報、聞き手/後藤健夫)
木村健太(きむら・けんた)
千代田国際中学校・武蔵野大学附属千代田高等学院校長
東京大学先端科学技術研究センター客員上級研究員
情報経営イノベーション専門職大学客員教授
広尾学園中学校・高等学校で医進・サイエンスコースを立ち上げ、学習者の主体性を軸とした研究的な学びを進めてきた。学外では、内閣府総合科学技術・イノベーション会議、経済産業省産業構造審議会、同省未来人材会議、同省「未来の教室」とEdTech研究会、科学技術振興機構次世代科学技術チャレンジプログラム、Tokyoサイエンスフェア(東京都科学の甲子園)等の委員を歴任。
Photo by Kuniko Hirano
わくわくする学校説明会
――木村さんが4月から校長に就任され、2025年度から画期的なことを始めるというので、その内容をうかがいに参りました。
木村 私たちは学校を、生徒と共に未来をつくる場所だと定義しています。まずは、学校説明会のスライドでご説明しますね。
最初に、経団連が作った「Society5.0 for SDGs」の動画をご覧ください。マイクロロボットを遠隔操作する手術の様子や、いろいろな国の医師が言葉の壁なく意見交換できるような未来の姿を表現しています。この中には、すでに導入が始まっている技術もあります。こういう未来を生徒の世代がつくっていくのです。
――普通の学校だと創立者や学校の沿革や校訓とかから始めるところを、経団連や経済産業省の「未来人材ビジョン」や「未来の教室」とか、大人に話すのと同じように語り掛けていますね。しかも、「わくわく感」を持って。
木村 自分もみんなも幸せな、わくわくする未来とはどのようなものか、生徒と一緒に考えていきたいです。私たちが教育のゴールだと考えているのは「ウェルビーイング(Well-being)」です。
――SDGs(持続可能な開発目標)の目標年は2030年。あと5年ほどしかない(笑)。
木村 グローバルに見ると、日本企業の従業員エンゲージメントは世界最低水準、現在の勤務先で働き続けたいと考える人は半数程度ととても少ない。転職や起業の意向を持つ人はさらに少ない。企業は人に投資をしないし、個人も自分で学ぼうとしないというデータが示されています。
その結果、日本の人材競争力は年々低下しています。グローバルな市場で必要とされなくなっているのです。国際競争力は、1990年前後の1位から、失われた30年間で31位にまで低下しています。
産業界からも従来型の教育からのバージョンアップが求められており、次の社会を形づくる若い世代に対しては、「常識や前提にとらわれず、ゼロからイチを生み出す能力」「夢中を手放さず一つのことを掘り下げていく姿勢」「グローバルな社会課題を解決する意欲」「多様性を受容し他者と協働する能力」といった、根源的な意識・行動面に至る能力や姿勢が求められています。