あなたたちのようなクズにも平等にチャンスを与えているんだ、それをよくかみしめておけ、というのが、ご主人様から私たちひきこもりへのメッセージなのです。機会を与えることが、ひきこもり当事者への最大の支援ということなのです。

 なのにあなたたちときたら、チャンスは逃すためにあるもの、そう信じて、そのように生きていて、結局なんだかわからないまま、狐につままれたように、訓練期間は過ぎ去ってしまい、もとどおりのひきこもりになる。

 ただそれまでとはちがうのは、支援を受けたということです。機会は与えられたのです、ぐだぐだ言い訳さえしなければ働けたでしょ、なのにひきこもりなわけですから、これはどうなります?無能なんじゃないの、あなたは無能なのではないですかと、ご主人様はあなたたちに問いかけているのです。そしてあなたに、「イエス、アイ・アム・ムノウ」と答えてほしいのです。

 ひきこもり支援とは、無能認定プロジェクトであると気づくべきです。ずーっと心のなかで思っていたでしょ、俺はだめなんじゃないかって、働けない自分に劣等感を感じていたでしょ。

「就労支援」で自信を無くす
ひきこもり当事者たち

 ご主人様は、そうじゃないんだと言いたいのです。「だめなんじゃないか」じゃなくて、「だめなんだ」と。劣等感ではなくて、劣等そのものなんだと。疑問形をやめて確定しろ、劣等に“感”をつけるのをやめろと言っているのです。

 就労支援は失敗だと言いましたけれども、ひきこもり当事者に、自分は無能だと、自己否定感ではなく、完全に“感”を取り除いて、自己否定させることができたのであれば、ご主人様の狙いどおりとなったとも言えます。失敗ではなく成功。

 支援の場では、表向き自己肯定感が大事とか、自信を持とうとか言うけど、あれは嘘なのです。

 実際問題、働け働けと言われ続けて、死ぬ思いでちょっとアルバイトして、すぐやめてを繰り返してさ、また一から出直しだと、ひきこもり支援を受けて、障害者枠とかも利用して、でも結局はだめで、前よりもだめになっていて、自信をすべて失ったわけでしょ。

書影『自立からの卒業』(現代書館)『自立からの卒業』(現代書館)
勝山 実 著

 値段のつかない、誰からも必要とされない、市場価値のない人間だというのが、ひきこもり支援を通じて明らかになっちゃったんでしょ。

 現在の自分の状態は、自分で蒔いた種としか思えない、機会があったのに生かせなかった、それは自分の能力のせいであって、国のせいではないって思っているでしょ。

 もう二度と社会が悪いなんて恥ずかしくて言えなくなりました。みんなそうなっていくんです。

 そして支援を受ける前は口にしなかったような、矛盾している言葉まで出てくるようになるのです。「働きたいけど、働けない」。