まず生産者物価指数(前年同月比%)を対象にした回帰分析では、説明変数(要因)として、①輸入物価指数(前年同月比%)、②GSCPI(Global Supply Chain Pressure Index)(6カ月タイムラグ)を使用する。
GSCPIはニューヨーク連銀が作成、公表する指数で、グローバルな輸送コストなど物流・供給面にかかっている「摩擦」の程度を指標化したものだ。当然ながらGSCPIが上昇すると平均6カ月のタイムラグを伴って生産者物価指数も上がる関係性がある。新型コロナからの回復過程ではこれが物価押し上げ要因として働いた。
2002年第1四半期~24年第3四半期までの四半期データで、上記の回帰分析を行うと、有意(関係性が偶然ではない)な結果が得られ、説明度を示す決定係数は0.83と非常に高い。特に今回注目するのは、輸入物価指数の前年同月比1%ポイントの上昇は生産者物価指数を同0.41%押し上げることだ(補注4)。
次に消費者物価指数(前年同月比%)を対象にした回帰分析では、説明変数(要因)として、①賃金コスト指数(employment cost)(前年同期比%)、②通貨供給量(M2)(前年同期比%)(1年タイムラグ)、③実質GDPギャップ(%)、④上記で回帰分析の推計値として算出された生産者物価指数(前年同期比%)の4つを使用する。
当然ながら賃金の変化と物価変動の間には正の相関関係が想定される。また通貨供給量の増減は約1年のタイムラグを伴って物価変動に影響を与えている(正の相関)。そしてGDPギャップと生産者物価の変化が今回の重要な変数になる。この4つの変数の設定は、2023年1月の論考と同じである。
この4変数を使って2002年第1四半期~24年第3四半期の期間について重回帰分析をすると、やはり変数間の関係性は有意であり、説明度を示す決定係数は0.87と非常に高い。これはこれら4変数で消費者物価指数の変化の87%を説明できることを意味する。図表1に示した消費者物価指数(前年同期比%)の実績値(青色)を推計値(オレンジ色)がよくなぞっていることに注目していただきたい。
特に今回重要なのは、GDPギャップ1%ポイントの上昇は消費者物価指数を同0.11%押し上げることだ。トランプ1.0でのGDPギャップ平均はマイナス0.9%、2024年第3四半期のGDPギャップは+2.6%なので、この要因だけで消費者物価指数は0.4%(=0.11×(2.6+0.9)もすでに押し上げられていることを意味する。少し形を変えた推計では、この幅は0.75%の可能性もある(補注5)。
これで「関税率引き上げ→輸入物価の上昇→生産者物価の上昇→消費者物価の上昇」という経路を推計する準備ができた。