これまで、リーダーといえば「責任をとること」が役割だと思われてきた。しかし、『リーダーの言語化 「あいまいな思考」を「伝わる言葉」にする方法』の著者である木暮太一氏は、リーダーの本来の役割は、どこに向かって進むべきかを「言葉で明確に伝えること」だと話す。このたび木暮氏に、リーダーが身につけるべき言語化スキルについて、シーン別に対処法や解決策を教えてもらった。(取材・構成/山本奈緒子)
褒めれば何でもいいというわけではない
――最近は部下にキツい言い方をすると、メンタルバランスを崩されたり、会社を辞められたり。何かと問題化しやすいこともあって、“褒める”一辺倒になりがちです。しかし単なるご機嫌取りにもなってしまいやすく、褒め方に苦労しているリーダーも多いようです。
木暮太一(以下、木暮):褒めることに関しては、いくつか問題があると僕は思っています。もちろんけなされるのと褒められるのとどちらがいいかと言われたら、それは褒められるほうがいいんですけど……。
まず取って付けたような褒め方は当然分かりますよね。「目が笑っていない」という言い方がありますけど、口先だけで褒められた場合は「思っていないくせに」と逆効果になってしまう。だったら言わないほうがいいと思います。悪い褒め方といいますか、そもそも褒めようとしていないのに褒めるのは良くないでしょうね。
――心から思っているならどんどん褒めて良いものですか?
木暮:一方で、最近は「みんなの前で褒められたくない」という若者がいるんですよ。『先生、どうか皆の前でほめないでください』(東洋経済新報社刊)という本も出版されていて。
なぜかというと、褒められることで他の人から注目されるのが嫌だったり、「何でアイツが褒められるんだよ」というようなやっかみを買ってしまうのが怖いんです。褒められることに対して抵抗があるという話で、この本がけっこう売れているんですよね。
だから基本的に褒めるということは、僕はそんなにいらないのではないかなと思っています。
多くのリーダーは褒めて伸ばすことの弊害に気付いていない
木暮:リーダーは部下を褒めるよりも、やるべきことを明確に言ってあげたほうがいい。「今日はこれをこうやって、やってください」などと。そしてできたら、「良し」「OK」と言う。それぐらいでいいと思います。
――よく「褒めて伸ばす」ということが言われますが、褒めなくていいと。
木暮:もちろん褒めて伸びることもありますが、一方で褒めて伸ばす大きな弊害が見落とされています。
たとえば、本人がめちゃくちゃ頑張ってギリギリ達成したことの場合を想定しましょう。この時に、リーダーは褒めようとするかもしれません。でも、そこで褒められるともう一回それをやらなきゃいけないというプレッシャーになっちゃうことがあるんですよ。
今回、僕はこうしてインタビューを受けて、それをライターさんが記事としてまとめてくれているわけですが、「素晴らしい! 100%完璧な文章です!!」と褒めたら、そのライターさんにとって、次の僕のインタビューがめちゃくちゃプレッシャーになると思いませんか? また同じ成果を出さなくてはいけないんだ、と。
それが素でできている場合はかまわないんですよ。だけどめちゃくちゃ頑張って、ギリギリ達成した場合はきつい。営業職でいったら、死にもの狂いで月末最終日にようやくノルマを達成したのに、「やっぱりあなたはやってくれると思った! さすがですね!!」と言われたら、来月はものすごいプレッシャーでしょう?
――常に限界を超えていかなければならなくなってきますよね。
木暮:この「褒める」ということが相手に対して多大なプレッシャーになり得る、ということをリーダーは知らなくてはいけない。だから僕は、そんなに褒めるということはいらないのではないかと思うんです。
では、部下を伸ばすにはどうすべき?
――褒める以外に、部下を伸ばす有効な対応はありますか?
木暮:ちゃんと見ていてあげる、それだけでいいと思います。東日本大震災が起きたときに、「頑張れ東北」とか「頑張れ福島」といった横断幕が掲げられたのですが、それが被災者の方たちから嫌がられた、ということがあったんです。自分たちはすでに頑張っているのにこれ以上頑張れと言うのか、と。被害を受けていない人間からすると、それが激励だと思ったんでしょうけど……。
――褒めによって与えるプレッシャーと、構図は同じですね。
木暮:そうなんです。私たちは必死に生きている、これ以上「頑張れ」と言われたくない、ということで炎上したことがあったんですよね。この出来事に対してある被災者が言ったのが、「自分たちのために自粛とかしてもらわなくても大丈夫なんです。バラエティ番組もお祭りもやってもらいたい。ただ、忘れないでほしいんです」という言葉だったんです。
――いついかなるときも言葉を明確にして伝えればいい、というわけではないということですね。
木暮:ただ見ていてほしい、自分たちがどうなっているか忘れないで気にかけてほしい、とおっしゃっていたんです。褒めることの本質も、まさにそういうところにあるんじゃないかなと思いますね。