そもそも危険運転の定義はなにか。実は、そのあいまいさはこれまでにも指摘され続けてきた。

 福井市で20年11月、酒気帯びで乗用車を運転しパトカーの追跡を受け、逃走しようと時速約105キロで片側2車線の市道交差点に進入。軽乗用車に衝突し大学生の男女を死傷させた男に、福井地裁は21年9月、危険運転致死を認めなかった。

 その判決理由は「ドライブレコーダーの映像から、男が一貫して直進し、大きく走路がブレることはなかった」「進行を制御することが困難な高速度と認定するには合理的な疑いが残る」だった。地検は「覆すのは困難」として控訴せず、判決は確定。遺族は「本当に悔しく残念です」とコメントしていた。

遺族の要望・署名の提出で
訴因変更が認められたケースも

 一方、大分の事故と同様、訴因変更が認められたケースもある。

 宇都宮市の国道で昨年2月、時速160キロ超で乗用車を運転してバイクに追突し、会社員男性(当時63)を死亡させたとして過失致死で起訴されていた20代の男=公判中=について、宇都宮地検が訴因変更を地裁に請求し、10月11日に認められた。

 速度ではないが、群馬県伊勢崎市の国道で今年5月、時速約90キロでトラックを運転し対向車にはみ出して乗用車2台と衝突。男性(当時53)と息子(同26)、孫(同2)の3人を死亡、1人を負傷させたとして過失致死傷で起訴されていた男(70)=公判中=について、飲酒の影響があったとして前橋地検が訴因変更を地裁に請求し、こちらも10月16日に認められた。

 いずれも遺族側が検察側に訴因変更を求め、これを受けて補充捜査を実施。前橋地検には被告の厳罰を求める署名約8万3000通、宇都宮地検には7万通超の署名が提出された。つまり、こうした要望や署名がなければ「過失」が維持された可能性が高い。

 速度を「進行の制御が困難」、飲酒を「正常な運転が困難」という、あいまいな現行法の規定をクリアにしようと、法務省の有識者検討会は27日、速度と飲酒について具体的な数値基準の設定を盛り込んだ報告書をまとめた。

 ズバリ踏み込んだものではなかったが、目安として速度は「(法定)最高速度の2倍や1.5倍」、飲酒は「呼気1リットルにつき0.5~0.15ミリグラム(血液1ミ リリットルにつき1~0.3ミリグラム)」などが示された。

 大分の判決を受け、小柳さんの姉(58)は記者会見で「(求刑を大きく下回る懲役8年と聞いたとき)頭が真っ白になった」と悔しそうだったが、一方でこうも述べた。「当然のことを認めてもらった」

 今後、法制審議会(法相の諮問機関)で法改正に向けた議論が進められるが、常軌を逸した運転で大事な人を失い、悲嘆に暮れる遺族が、なぜ加害者に当然の処罰を求めるために奔走しなければならないのか。このような状況は、もはや改めなければならない。