新幹線で席を倒す際の声掛けを例に取るなら、声を掛ける方は「相手の(物理的な)パーソナルスペースを侵食することを懸念して断りを入れている」のに対して、声を掛けられるのが嫌な人は「急に話しかけられることで(心理的な)パーソナルスペースを侵食され、それが不快に感じられるからやめてほしい」と考えている。
車内の飲食も、他人が行っている場合は匂いや音が自分のパーソナルスペースに問答無用で侵入してくるという性質がある。
電車内で乗客は「自分のパーソナルスペースを守りたい気持ち」と「他人のパーソナルスペースを尊重したい気持ち」という、両立可能だが相手の出方次第では衝突する可能性もある2つの願いを持っている。
”いろんなことがお互い様”派から
”他者へのリスペクトを行動で表明”派まで
そこで、「車内の仕様が許す限りは暗黙の了解が成立するので、それぞれが断りなくパーソナルスペースを好きに使いましょう」と考える”いろんなことがお互い様”派や、「相手のパーソナルスペースはなるべく侵害しないのを前提として、お互いが気持ちよく過ごせる空間をともに作り上げていきましょう」と考える”他者へのリスペクトを行動で表明”派など、様々な考え方の派閥が生まれうるのであった。
筆者の記憶では、有名ラーメン店の一蘭では、客が一時離席する際にそれを声を発さずとも店員に伝えるためのシステムが席に用意されている。あれと似た感じで、新幹線の座席に「私は座席をどれだけ倒されてもなんとも思いません」と書かれた木札を用意しておいて、それを席に掲げておけば、前の席の乗客がそれを確認したのち声掛けなく心置きなく席を倒すことができる……というやり方にしてはどうか。
などと冗談ベースの提案ではあるが、意外と実用的かもしれない。万人が価値観や心構えを共有できていない領域では、そうしたサポートを公式(この場合なら鉄道会社)から期待してもよさそうな気もする。