一方、同じく長距離移動をする高速バス・夜行バスで、車内の飲食はどのように定められているか。これはバス会社によるが、多くのバス会社では、車内での飲食を禁止するルールを設けていない。しかし長距離バス利用ガイドのようなところでは、「アルコールは超注意。禁止しているバス会社もあり」「車内は匂いがこもりやすいので、匂いのしにくい食べ物(おにぎり)や、食事音・咀嚼音のしにくい食べ物(グミや飴。しかし袋のガサガサ音は注意)がおすすめ」といったことが、おおむね”マナー”と称していいくらい共有されている。
つまり、長距離バス車内の飲食は「オールオッケー」とはならず、「周囲に配慮すればオッケー」というのがおおまかな結論である。
これには「長距離バスの座席にテーブルやドリンクホルダーがついていないこともままある」ことも関係していよう。また、夜行バスなら「乗客みんなで静かにしておくべき空間」が目指されるので、「お弁当を食べながら車外を眺めて楽しむ新幹線」とはその根本から違う。そもそも、長距離電車(特に新幹線)には駅弁という文化がある。
長距離のバスと電車では、前述のごとく成り立ちの諸要因が違うので、車内飲食の是非を単純にイコールで比較することはできないが、たとえば長距離バスの「匂いの強い食べ物は控えられたし」といった考え方は、長距離電車内での飲食の捉えられ方に転用可能であり、そうしたところに「長距離電車内の飲食の是非」の議論が活発化する一因があるのかと思われる。
「ウゼェ。勝手に席倒せや」
パーソナルスペースを巡るせめぎあい
定期的に取り沙汰される議論に「新幹線で席を倒す際は後ろの人に声をかけるべきか否か」というものがある。これにもいろいろな解釈があって、少し前の堀江貴文氏による「ウゼェ。勝手に倒せや。そうやって何でもかんでも保険かけようとすんなボケ」(https://x.com/takapon_jp/status/1017948520794296320)といった主張は刺激的で多くの関心を集めたことは記憶に新しいが、この問題も「車内の飲食」に通じる要素があり、つまるところパーソナルスペースの話である。「電車内でパーソナルスペースはいかにしてあるべきか」の解釈を巡って、種々の考え方が狭い車内を錯綜しているのである。