馬淵さんの場合は以下の通りでした。

「自分だけが上京していいね。こっちはこんなに苦労しているんだよ」(初めて大学進学で東京に出てきて、東京が楽しいことを電話したときの母からの言葉。仕送りに大変だったかもしれないが傷ついた)

「弟だからここでいい。目立たなくてもいい」(地域の運動会の家族リレーで兄が一番目立つ表彰台に上がったときに、母に言われて悲しかった)

 こういったことを書き出してみると、自分は人に影響を与えることとは無縁の地道な裏方の仕事をしていればいいのだと思い込み、これまで総務などの部署で働いていたのかもしれないということが考えられます。過去に傷ついた言葉はトラウマになっていることが多いのです。

 そうすると、これまでの経験にこだわる必要がないことがわかりました。そして、本来、人や周囲に影響力を与える仕事に興味があることがわかりました。

自己分析をしたからこそ見えた
全く気付かなかった「適職」とは?

 こうして分析した結果、馬淵さんの定年後の需要が明確化されました。馬淵さんの場合、「先生」という職業が合っているのではないかという結論に至ったのです。

 たとえば、人手不足の小学校や中学校ではサポーターを募集しています。年齢は問われず、副校長の事務的なサポートや、教室に入室できない不登校予備軍の児童の面倒を別室でみるサポートなどがあります。さらに資格を取得すると、もっと仕事は増えます。

 これらの仕事の時給は1000円から2000円で、交通費は出ないことが多いです。様々な小中学校で随時、人材を募集しているので、住んでいる市区町村の行政のHPから確認すれば、見つけることはそう難しくないでしょう。塾の先生や塾、家庭教師、文化センターの講師も人に影響を与えることができます。現役時代は部下の相談に乗っていたことが多いので、こういった内容は適職だと思います。

 このように、馬淵さんは自己分析をしたからこそ、次が見えてきたのです。多くの大企業でリストラが起きているように、今後も企業社会で人材不足が続く期間は限られています。製造業や小売業の人手不足はITで解消される可能性があります。仕事が見つからなくなる前に、自分の需要がある分野に適性、興味をつなげることができるのか、現役時代から分析してみましょう。適職に就くと、定年後の仕事の満足度はぐんと上がります。

(生活経済ジャーナリスト 柏木理佳)