ある研究はセイバリングの実践が抑うつ症状の有意な減少につながることを示唆しているし、別の研究では高齢者の「健康状態にかかわらず、高い人生満足度を保つこと」につながることが示唆されている。
特に、ブライアントが言うように、セイバリングが「訓練によって高められるスキル」であることを考えれば、こうした研究結果について、僕たちは立ち止まって考える必要があるのではないだろうか。日々の生産性の成果を楽しむためには、セイバリングのための時間をつくる必要があるだろう。だが、それによって得られるメリットは絶大なのだ。
セイバリングとは人生の良い側面を楽しむ技術であり、ポジティブな「瞬間」を、楽しさや畏敬の念、誇り、喜びといったポジティブな「感情」に変える行為だと見なせる。セイバリングを実践しているとき、人はポジティブな経験全体に注意を向け、それを楽しんでいる。ブライアントによれば、セイバリングは経験をより楽しくするだけでなく、努力することと楽しむことのバランスを取るのにも役立つ。
彼によれば、人生の出来事に対処する方法は主に4つある。すなわち、ネガティブな出来事に対しては、避けるか、対処する。ポジティブな出来事に対しては、さらに得ようとするか(ブライアントはこれを「獲得メンタリティ」と呼んでいる)、その経験を味わう。
何かを堪能することに意識を向けていると、モア・マインドセットをいったん脇に置ける。ブライアントは「人は、何かを手に入れたからといって、それを楽しむとは限らない。実際、次に手に入れたいものに駆り立てられるだけであることが多い」と言う。
何かを得ても、自動的にそのことをありがたいと思うわけではない。注意していないと、得ることばかりに気を取られて、味わうことに十分に集中できない。
「これが獲得メンタリティの問題だ。持っているものに目を向けず、持っていないもの、手に入れるべきものばかりを見てしまう。楽しめないものを得ることに、何の意味があるのか?」(ブライアント)