JR東からすれば
今まで安売りしすぎだった?

 割高な国鉄運賃を引き継いで出発したJRは、民営化の「公約」通り、運賃水準を維持した。私鉄も大幅な値上げこそ行わなかったが、複々線化工事など輸送力増強投資に関連する運賃改定で、JRと同じか、または上回る運賃水準となった。

図5:首都圏の鉄道事業者との初乗り運賃の比較プレスリリースより 拡大画像表示

 この他、並行する私鉄線と競合する区間の「特定運賃」は、直接競合とならない区間や利用が少ない区間を中心に、計30区間中18区間を廃止するが、競争が激しい渋谷~横浜、品川~横浜、新宿~八王子など12区間は存続する。言い方は悪いが「釣った魚にエサはやらない」という割り切りも感じさせる。

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 もっともJR東からすると、今まで都心の鉄道サービスを安売りしすぎていたということなのだろう。

 運賃改定のプレスリリースには、羽田空港アクセス線の整備など「今後の具体的な取組み」とともに、「これまでの主な取組み」として1987年以降のさまざまな輸送サービス向上を列挙している。都市鉄道は施設、車両、人件費など何かとカネがかかる。「37年間でこれだけの設備投資をしたのに、お値段据え置きだったんだぞ」と声を大に主張しているのだ。

 東京23区の消費者物価指数(総合)は、1987年から2023年で21%、2013年以降の10年間で見ても10.6%増加している。鉄道の運賃制度は総収入が総括原価を上回らない範囲で認可されるため、物価が上がっても十分な利益が出ていれば値上げはできなかった。そういう意味では、30年越しに追い付いた値上げと言えるかもしれない。