都心周辺の「電車特定区間」に
割安な運賃を設定したワケ
同じ区分で、コロナ前の2019年度上半期と今年度上半期を比較したのが次のグラフだ。2024年3月の北陸新幹線敦賀延伸開業の影響でJR西日本の「新幹線」収入が94億円増加した以外は、いずれの区分でも輸送量と運輸収入はコロナ前を下回っている。
収入についてはこの間、消費税率改定とバリアフリー料金制度導入による増収があってなおの数字である。その中でも特に、JR東の大都市圏定期利用の減少幅が、輸送量、運輸収入ともにとびぬけて大きいことが分かる。
鉄道事業は減価償却費や動力費、人件費などの固定費が大きいため、利用が損益分岐点を超えれば利益が伸び、減少するとそのまま利益が減っていくビジネスだ。つまり、関東圏定期輸送の大幅減少は、鉄道事業の収支に深刻な影響を及ぼしている。
関東圏の収支を改善するには、運賃そのものを値上げすると同時に、割引を縮小(廃止)するのが効果的だ。ひとつは通勤定期券の割引縮小だ。JRの定期運賃は国鉄運賃法の規定の名残で、6カ月定期券の割引率が約6割になっていた。これは私鉄と比べてとびぬけて大きいため、割引率を最大5%縮小する。
もうひとつが前述の「電車特定区間」「山手線内」の廃止だ。JR東は、国鉄時代に運賃抑制策として制定された「電車特定区間」「山手線内」は、「他の鉄道事業者の運賃改定により、運賃格差が逆転または縮小したため役割を終えた」と説明する。
どういうことか。「山手線内」の割引運賃制度は、路面電車との競争関係にあったため戦前から存在したが、その他の複雑な運賃体系が形成されたのは国鉄末期、1984年以降のことだ。国鉄再建の過程で収支均衡が望めない路線が「地方交通線」に指定され、維持費用の負担を利用者に求める意味で約1割増の運賃とした。
国鉄は当時、1981年、1982年、1984年、1985年、1986年と、ほぼ毎年のように運賃改定を行った。それまで利潤を目的としない国鉄の運賃は私鉄より安いのが当たり前だったが、度重なる値上げで運賃水準が逆転してしまった。そこで競争力を保つため、都心周辺の「電車特定区間」に割安な運賃を設定したのである。