3 認知症ケアと看取りの質

――3つ目のポイントは「認知症ケア・ターミナルケアが良質か?」という点ですね。

田村:3つ目のポイントが一番重要だと考えています。

 まず認知症ケアについてですが、認知症専門医がいるか、認知症ケアのプログラムを持っているかがポイントです。また、在宅医療支援診療所との連携や、訪問看護ステーションとの協力関係があるかどうかも確認すべきです。それに加え、職員の研修や教育プログラムの充実度、実際のケア経験の多さも重要です。

 認知症ケアに関しては、まだまだ課題が多いと感じます。「どのような認知症ケアをしていますか?」と質問すると、「個別ケアをしています」と答える施設もあります。しかし、その「個別ケア」が具体的な認知症ケアプログラムではなく、ただ「個別に対応しています」というだけの場合も少なくありません。具体的な療法やケアの内容を提示できない施設もあります。

――認知症ケアでチェックすべきポイントは?

田村:認知症は現在のところ、薬で治すことは難しい。そのため、ケアによって進行のスピードを抑え、急激な悪化を防ぐことが大切です。急速に症状が進行すると、本人が非常に不安になります。たとえば、昨日までできていたことが突然できなくなると、その変化に強い不安を感じ、精神的な状態も悪化してしまいます。

 なので、ケアスタッフが常にそばにいて話を聞いてくれ、本人に安心感を与えられるような環境が、精神状態を安定させる鍵になります。さらに、その人に合った療法を提供することができれば、進行をかなり抑えられる可能性があります。認知症ケアは、この「落ち方をゆるやかにする」ための取り組みであり、本人の不安を減らしながら、生活の質を保つことを目指すものです。

看取りの質は”実績件数”が9割

――ターミナルケア、いわゆる看取りについてはどうでしょうか。

田村:看取りは実践件数がサービスの品質を大きく左右します。年間で何件の看取りを行っているか、実績が多ければ多いほど、しっかりとしたケアを提供していると考えられます。

 件数は施設の規模による部分もありますし、単に「何件あれば良い」という問題ではありません。それよりも重要なのは、看取りを経験した介護職員がどれだけいるか、またその経験をどのように積んできたかという点です。

 介護職員にとって、入居者が自分の部屋で穏やかに亡くなるまでの過程を見守るのは非常につらい経験です。特に、入居者の機能が少しずつ低下していく様子を見続けることは、精神的な負担が大きいんです。そのため、看護師や医師が適切に指導し、介護職員に「今、本人はこういう状態だから、これが必要だ」ということを教え、支えることがとても大切です。

 経験を何度か積むことで、介護職員自身が成長し、次の入居者やご家族にも看取りを前向きに捉えた説明や対応ができるようになります。これが、看取りの経験を積むことの本質だと思います。

――具体的に「慎重に見極める」とは?

田村:一つは、ホームの運営母体の信頼性を確認することです。運営会社の実績や、過去のトラブルの有無などを調べてみるといいですね。また、見学時にスタッフや管理者に「看取りの実績はどれくらいありますか?」と具体的に尋ねてみることも重要です。その際、数字だけでなく、その看取りがどのように行われたか、ケアの具体的な内容を聞くのがポイントです。

 さらに、入居者の家族へのサポート体制も重要です。たとえば、「看取りに際して、家族にはどのような説明や支援を行っていますか?」と尋ねてみると、そのホームの方針がよく分かります。家族の気持ちに寄り添い、丁寧に説明やフォローをしてくれるホームであれば、看取りにもきちんと対応している可能性が高いです。

田村明孝(たむら・あきたか)
株式会社タムラプランニング&オペレーティング代表取締役。「高齢者住宅支援事業者協議会」事務局長。1974年に大学卒業後、ケア付き高齢者マンション開発会社に入社。神奈川県横浜市などにケア付き高齢者マンションの開設を手掛ける。1987年に株式会社タムラ企画(現タムラプランニング&オペレーティング)を設立、代表取締役に就任。高齢者住宅の事業計画立案及び実施・運営・入居者募集等、一連の実務に精通したコンサルタントとして活躍。市町村の介護保険事業計画などの福祉計画策定をはじめ、老人福祉施設や有料老人ホームの開設コンサルや経営改善コンサルに力を入れ実践している。テレビ、新聞、雑誌など各種メディアへの出演実績多数。