「あなたは人生というゲームのルールを知っていますか?」――そう語るのは、人気著者の山口周さん。20年以上コンサルティング業界に身を置き、そこで企業に対して使ってきた経営戦略を、意識的に自身の人生にも応用してきました。その内容をまとめたのが、『人生の経営戦略――自分の人生を自分で考えて生きるための戦略コンセプト20』「仕事ばかりでプライベートが悲惨な状態…」「40代で中年の危機にぶつかった…」「自分には欠点だらけで自分に自信が持てない…」こうした人生のさまざまな問題に「経営学」で合理的に答えを出す、まったく新しい生き方の本です。この記事では、本書より一部を抜粋・編集して掲載します。

いや言語化がすごすぎ…「なぜ、新卒一括採用で一生の就職先を決めると危険なのか」を見事に表現した一冊とは?Photo: Adobe Stock

今の日本で、新卒採用の「ご縁」に身を任せてはいけない

 ある規範やシステムが社会に根付いたということは、その規範やシステムに一定の合理性があったということですが、これは新卒一括採用についても同様に言えることです。

 何を言っているかというと、社会全体が足並みをそろえて成長・発展しているようであれば、このようなシステムはむしろ合理的だったと考えられる、ということです。

 もし「選択に時間をかけることで得られるリターン」が「選択に時間をかけることで失うロス」よりも小さいのであれば、自分の人生についてあれこれと深く考えるよりも、目の前にある選択肢に「ご縁をいただいた」と飛びついて、とにかくそこで頑張るのが合理的な戦略だったということができます。

 就職活動では、よく「ご縁」という言葉が使われますが、あらためて考えてみれば、なんとも奇妙な言葉です。

 就職先を決めるというのは、本来は人生を決定づける重大な意思決定であるはずなのに、それをさしたる考えもなくランダムに選んでしまえば、そこに「これで本当によかったのか?」という猜疑と負目が生まれることになります。この猜疑と負目は企業にとってネガティブな影響……いま風の言葉を用いて表現すれば「エンゲージメントの低下」を招きますから、これはなんとかしないといけない。

 ということで、この猜疑と負目を解消するため、単なる「偶然」によって決まった就職先を、あたかも「必然」であったように思わせたい、そこに何らかの運命的な意味があったのだと思わせたいという心情が、この「ご縁」という言葉によく表れているように思います。

 しかし、そのような考え方はもう通用しません。私たちはすでに「ランダムに居場所を選べば成長の期待値はゼロ」という社会、つまり「選択に時間をかけることで得られるリターン」が「選択に時間をかけることで失うロス」よりも大きい時代を生きているのですから、自分の居場所、さらには人生について、よくよく考えて生きなければなりません。

 つまり、新卒一括採用というのは、労働市場において企業側に有利な「情報非対称性」を生み出すための巧妙な仕組なのです。