「あなたは人生というゲームのルールを知っていますか?」――そう語るのは、人気著者の山口周さん。20年以上コンサルティング業界に身を置き、そこで企業に対して使ってきた経営戦略を、意識的に自身の人生にも応用してきました。その内容をまとめたのが、『人生の経営戦略――自分の人生を自分で考えて生きるための戦略コンセプト20』。「仕事ばかりでプライベートが悲惨な状態…」「40代で中年の危機にぶつかった…」「自分には欠点だらけで自分に自信が持てない…」こうした人生のさまざまな問題に「経営学」で合理的に答えを出す、まったく新しい生き方の本です。この記事では、本書より一部を抜粋・編集します。
「時間泥棒」に自分の人生を奪われないために
ミヒャエル・エンデの小説『モモ』には、人から時間を奪う灰色のスーツを着た「時間泥棒」が登場し、それまで十分幸福に暮らしていた人たちから時間を奪っていきます。
このとき、彼ら時間泥棒が訴えたのは「愛する家族や隣人のために無為に使っている時間資本を切り詰めて貯蓄に回せば、あなたはお金持ちになれますよ」という提案でした。
これはまさに、「人生を豊かにしてくれる資本」のために注いでいた時間を、金融資本を築くためだけに集中して使ってはどうか、という提案なのです。そして、この提案を受け入れた人たちは、自分でも気づかないうちに、かつて実現していたウェルビーイングの状態をどんどん破壊していってしまうのです。
では「灰色のスーツを着た男たち」に時間を奪われないために、私たちはどうすればいいのでしょうか?
答えはただひとつ、「自分にとって本当に大事なもの」「自分が本当に実現したいこと」を意識して時間資本の配分をマネージするしかありません。
これを怠ってしまえば、私たちの人生は、社会のそこかしこを跳梁跋扈している時間泥棒に容易にハックされてしまい「自分が本当に望んでいること」ではなく、「時間泥棒が望んでいること」に時間資本を使うようになってしまいます。こうなってしまったら、いくら精緻な「人生の経営戦略」を立てても意味がありません。
なぜ、この点をここまで強調するかというと、この教訓が私自身の失敗に根ざしているからです。
私は、30代の半ば頃から自分の人生に経営戦略論を持ち込むということを始めたわけですが、その結果、当初起きたことは「設定した目標がことごとく実現するのに全然ハッピーにならない」という困惑させられる事態でした。
いまから思えば、当時の私が手に入れようとしていたものは、自分自身が心から望んでいたものではなく、周囲の他人を羨ましがらせるものであったように思います。何のことはありません、私にとっての時間泥棒は「私自身」だったということです。
読者の皆さんは、どうか私と同じ轍を踏むことのないよう「自分の人生にとって本当に大事なこと」を意識してもらえればと思います。