「あなたは人生というゲームのルールを知っていますか?」――そう語るのは、人気著者の山口周さん。20年以上コンサルティング業界に身を置き、そこで企業に対して使ってきた経営戦略を、意識的に自身の人生にも応用してきました。その内容をまとめたのが、『人生の経営戦略――自分の人生を自分で考えて生きるための戦略コンセプト20』。「仕事ばかりでプライベートが悲惨な状態…」「40代で中年の危機にぶつかった…」「自分には欠点だらけで自分に自信が持てない…」こうした人生のさまざまな問題に「経営学」で合理的に答えを出す、まったく新しい生き方の本です。この記事では、本書より一部を抜粋・編集します。
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組織にとって「経験」は経営資源
組織にとって「経験」とは資源です。なぜなら「経験」を与えることによって人的資本が増加するからです。したがって企業は、ヒト・モノ・カネといった経営資源と同様に「経験」についても、最も大きなリターンの期待値をもつ対象に投資するべきだ、ということになります。
では、どのような対象に投資するのが最もリターンの期待値が大きいのか?
すでに説明した通り、リターンの期待値=NPVを大きく左右するのは「時間の長さ」ですから、答えは「できるだけ若い人」ということになるわけですが、こちらもなかなかできていない、というのが現状です。
組織内における「経験の総量」はゼロサムですから、これをどう配分するかは、それこそバランス・スコア・カード(BSC)の「学習・成長の視点」の観点からは非常に重要な論点なのですが、どうも日本の企業はこの点について問題意識が薄く、これから先のキャリアが長くない年長者に貴重な機会を与えてしまっていることが少なくありません。
例えば、グループ企業の経営の立て直しなどというのは、良質な経験ができる最も貴重な機会のひとつなのですが、このような機会を、定年がほど近い年長者に与えてしまうというようなことを平気でやっているのです。むしろ、こういった仕事は、これから先のキャリアが長い30代前半の人にこそやらせるべきなのですが……。
自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ
以上の考察を踏まえて、ライフ・マネジメント・ストラテジーにおける洞察を引き出せば、これはそのままリクルート創業者の江副浩正の有名な言葉に落ち着くと思います。それはすなわち
自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ
という言葉です。
組織の上層部にポジションが固定化され、経験のデフレが進行している日本の社会・組織において、貴重な機会が与えられることを受動的に待っていれば、無為に貴重な時間資本を、さしてリターンの得られない活動に投下することになってしまいます。
このような状況を打破するためには、受動的に「良い経験を得られる機会」を座して待つのではなく、能動的に自ら「良質な経験を得られる機会」を創り出していく姿勢が必要です。
それは例えば、新しいプロジェクトを提案したり、他部門との横断的な仕事を提案したり、場合によっては社外における活動に参加するなど、従来の職務範囲を超えた挑戦に踏み出すといったことです。
このようなアドバイスをすると、よく「自分には権限がないから動けない」といったことを言い出す人がいるのですが、これは全く考え方が逆で、むしろ「動き出さないから権限が与えられない」と考えるべきなのです。組織におけるパワーを許可証のように考えている人がいますが、パワーというのは一種の現象であり、その現象は「自ら動く人」の周囲に発現するのです。
自ら「成長の機会」を創り出すことは、単にスキルや実績を積むだけでなく、リーダーシップや創造力といった重要な能力も養います。限られたチャンスの中でも、自分で価値ある経験を創り出す力は、どのような環境でも生きる力となり、結果的には組織にとっても価値のある人材となるでしょう。