「勉強しなさい!」と親に叱られた経験は、誰にでもあるだろう。つい口うるさくなってしまうくらい、親にとって子どもの学力は心配なものだ。もちろん、人生において勉強がすべてを決めるわけではない。しかし、さまざまな知識や技術を身につけておくことが将来子どもの役に立つに違いない、と思うのは親心としては当然のことだ。教育経済学者である中室牧子氏は、著書『科学的根拠(エビデンス)で子育て』で、「勉強することが苦にならなくなる秘策」を紹介している。その方法とは何か。本書の内容をもとに解説する。(文/神代裕子、ダイヤモンド社書籍オンライン編集部)
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親の悩みの多くは「わが子が勉強ができない」
子どもの成績を、本人以上に親が心配している状況をよく目にする。
中室氏も「子育て中のご両親から受ける相談の中で、ダントツに多いのが、『わが子が勉強ができない』という悩み」だと語る。
しかし、実は「勉強ができない子をできる子に変える秘策がある」という。
ただその秘策は、いまこの瞬間、子どもたちが勉強ができるようになることだけを目的にはしていない。
大人になった我々も、日々新しい技術や知識を学ぶ必要がある。それと同じように、「子どもたちが学校を出たあとにも役立つように、勉強することが苦にならないような方法を知り、技術を身につけてもらうことを目的にしている」と中室氏は語る。
この注意点を踏まえた上で、次の秘策を読み進めてほしい。
目標を立てることで勉強ができるようになる?
中室氏が語る秘策のうちの1つは、「目標を立てる」ことだ。
子どもたちも頭では「勉強は大事だ」とわかっているが、「今日はやめておこう」「明日でいいや」と先延ばしにしてしまう。
なぜそんなことが起こるかというと、「きちんと勉強することによって遠い将来に得をすることよりも、今勉強せずに楽をすることを過剰に高く評価してしまうから」だという。
これを行動経済学では「現在バイアス」と呼ぶ。
しかし、現在バイアスによって、勉強を先延ばしにすることで、成績が落ちたり受験期に苦労したりすることはわかっている。ではどうしたらいいのだろうか。
その方法の1つとして、子どもに「目標」を立てるように仕向けることを中室氏は推奨する。
目標を立てることが効果的だというが、本当にそうだろうか。
たとえば、筆者は何度となく「ダイエットをする!」と目標を立ててきたが、成功した試しがない。そのため、目標の持つ効力がどの程度のものなのか、気になるところである。
本当に効果がある目標の立て方とは
目標を立てると言っても、「効果的な目標の立て方」があるようだ。
アメリカの大学で4000人を対象に行われた実験で、次の2つのタイプの目標設定が試されたという。
実は、インプットに目標を設定した学生の成績は上がり、アウトプットに目標を設定した学生の成績は上がりませんでした。なぜでしょうか。
学生にとって自分の力でコントロールしやすいインプットに目標を定めるほうがうまくいくということのようです。(P.129)
確かに、試験にどのような問題が出るかわからない以上、アウトプットを意識的にコントロールするのは難しい。
しかし、勉強をする時間や量は、自分で決められるものだ。やった分だけ成果が出やすいという面もあるのだろう。
目標を立てるコツは「自分で決めること」
もう一つ、興味深い実験がある。オランダの大学で行われたもので、この大学では、新入生が1学年上の先輩と定期的に面談を重ねながら、勉強をサポートしてもらう仕組みがあったという。
この仕組みを利用して、学生たちは、新入生がみずから目標を設定するグループと、先輩が新入生に対してより高い目標を設定するように促すグループのいずれかにランダムに割り当てられた。
この実験の結果、新入生がみずから目標を設定したグループは成績が上がったが、先輩から促されてより高い目標を設定したグループの成績は上がらなかった。それはなぜか。
中室氏は次のように解説する。
確かに、勉強だけでなく、会社における目標などもそうだろう。会社側から押し付けられた目標だと取り組む気にならないが、自分で考えたものに関しては手をつけやすかったりする。そんな経験がある人も多いのではないだろうか。
効果のある目標設定の3つのポイント
他にも、イタリアの大学で新入生を対象にした研究が行われているそうだ。
ここでは、タイムマネジメントや教材の整理の仕方、勉強へのモチベーション維持など、自己管理の方法を一通り学んだあとで目標を設定すると、より効果的であることが判明したという。
これらのことから、ざっくり目標設定についてまとめると、(1)ある程度達成可能なインプットに対して、(2)他人ではなく自分が、(3)自己管理の方法について学んだ上で目標を設定するとより効果的である、と言える。
これらを踏まえると、子どもにタイムマネジメントのコツなどを教えてあげて、達成可能な目標を自分で立てられるように促すのが、親がしてあげられることになる。
「ゲームは1日何時間にする?」「夏休みの宿題は、どんなふうに進めたらいいと思う?」などと、目標を立てるためのヒントを与えてみるといいかもしれない。
「勉強しなさい!」と言うことに疲れた人は、ぜひ実践してみていただきたいものだ。