ある日、先ほどの50代の女性がきっぱりとこう言われました。

「スペイン語を勉強してみようと思うんです。まずはスペイン語検定の3級を目標にしてみます」

 亡き夫が仕事の関係でスペインによく行っていて、いつか一緒に行ってみたいと思っていたそうです。将来、スペインに行くことがあれば、もしかしたら役に立つかもしれないと考えて学ぼうと思われたようです。

 最初から大きな人生の目標でなくてもかまいません。

 今後のために、今できることは何かを考え、行動してみてはいかがでしょうか。

 少し先のことを考えてみると、今やるべきことが見えてくることがあります。

 死別を経験してまもなくは、失われたものや二度とできなくなってしまったことに意識が向きがちになります。自分の人生までもが終わってしまったかのように感じることもあります。

 しかしながら、あなたのすべてが失われたわけではないのです。

 失われたものや、できないことばかりを考えるのではなく、自分には何が残されているのか、できることは何かに目を向けることも大切です。

 小さな目標に向かって動き始めると、そのことが明日を生きる楽しみに変化していくことがあります。

 どのような目標や課題であっても、1つひとつ達成していくことが、亡き人のいない人生を自分の足で歩んでいく自信につながるものです。

白紙に戻った人生の設計図だから
自分で再び描くことができる

 スペイン語を学び始めてからの女性は、少しずつですが笑顔が増えてきたように感じました。

 そして2年後、無事にスペイン語検定の3級に合格し、私どものところに報告に来てくれました。まもなくスペインに留学する予定とのことです。

「彼の好きだった場所を訪れて、同じポーズで写真をとって、彼の好きだったものを食べて、それからゆっくりこれからの自分の人生を考えてきます。

 彼の姿は見えませんが、残りの人生を楽しみたい。そしてその人生が終わったときにもう一度彼に会える日を楽しみにしたいと思います」

 と笑顔で話されていました。いったん白紙に戻った人生の設計図は、彼女自身の手で再び描かれ始めたのです。