「どうすれば、お客様に覚えてもらえるのか…」
営業パーソンにとって、お客様に「覚えてもらう」ことは死活問題。「前に会いましたっけ?」「すみません、なんの話でしたっけ?」なんて言われてしまうような「その他大勢の営業」では、結果はおろか、信頼関係さえ構築できない。
「お客様の“記憶に残る”ために必要なことがあります」。そう語るのは、『Sales is』を執筆した今井晶也氏と、記憶に残る人になるを執筆した福島靖氏だ。お客様の「記憶に残る」ことを心がけたことで圧倒的な成果を出した営業のプロによる対談でわかった「お客様の記憶に残る営業」の真髄に迫る。

普通の人はお客様を「お辞儀」で見送る。では、「また会いたい」と思われる人がやっている工夫とは?Photo: Adobe Stock

相手にとって「特別な存在」になるには?

――「また会いたい」と思われる特別な存在になるには、どうすればいいのでしょう?

福島靖(以下、福島) 特別になる。難しいことですよね。僕も悩みましたが、特別の反対である「当たり前」に着目してみたら、ヒントが見つかりました。

 たとえば、冷蔵庫ってモノを冷やしてくれますよね。今ではそれは「当たり前」ですが、1930年代に日本に初めて冷蔵庫が登場した時は驚きの機能だったそうです。つまり今ある「当たり前」って、かつては誰もが「特別」だと感じたことなんです。だからずっと残り続けて、「当たり前」になったんです。

今井晶也(以下、今井) 日常に溶け込むと、最初の感動や価値はしだいにコモディティ化していきますよね。

普通の人はお客様を「お辞儀」で見送る。では、「また会いたい」と思われる人がやっている工夫とは?『Sales is』今井晶也著(扶桑社刊)

福島 そうなんです。それが当たり前になってしまったのは、「意味」を忘れてしまったからです。モノを冷やしておける「意味」を忘れてしまったから、冷蔵庫の機能を特別だとは思わないんです。

今井 たしかに、夏の暑い日に外から帰ってきて、冷蔵庫に冷えたアイスがあると「ありがたい……」と感じますね。

福島 たとえばレストランでも、同じことが言えます。

 オープン当初は意味や意図を持って内装やカトラリーを選んでいたとしても、しだいにその意味を忘れていきます。スタッフの方に「なぜ、これを選んだんですか?」と聞いても、誰も答えられません。でもそこで、「こういう理由で、このカトラリーを使っています」と、その意味を教えてもらえたら、当たり前のように使っていたカトラリーも特別なものに思えてきます。

今井 「意味」を知ることで、当たり前に感じていたものが「特別」になるんですね。

お客様を「お辞儀」で見送らない

今井 この考え方、福島さんは営業活動にどのように落とし込んでいますか?

福島 営業活動における所作や持ち物の「本来の意味」を考えるようにしています。すると、これまで当たり前だと思っていたことに違和感を覚えるときがあります。

 たとえばエレベーターでお客様を見送るとき、扉が閉まるまで頭を下げ続けるのがマナーだと言われますよね。でも、見送られる方も頭を下げ続けないといけませんし、最後にお客様に向けるのが頭頂部でいいのだろうかと思ってしまったんです。

今井 たしかに、相手にも気を遣わせてしまいますね。

福島 お辞儀やお見送りって、本来は相手と「気持ちよく別れる」ためにやっているはずです。だから僕は、お辞儀をしたあと、扉が閉まる前に顔を上げて、笑顔で手を振るようにしています。

今井 それは印象に残りそうですね!

福島 はい。相手も「おっ」と反応してくれます。

 ほんのちょっとの違いですが、誰もが当たり前にやっていることだからこそ、少し工夫を加えるだけで相手の記憶に残る行動になります。「あの人、感じのいい人だったな」と感じてもらえれば、また会いたいと思ってもらえる確率が高まります。