保守派からのすさまじい
批判、攻撃、圧力
このような状況を最大限に利用し、企業を標的にしてDEI政策を見直すよう圧力をかけているのが、保守派の団体や活動家、インフルエンサーなどである。そのなかでも特に大きな影響力を持っていると言われているのが、政治評論家で活動家のロビー・スターバック氏だ。
スターバック氏はDEIを「(白人)男性に対する戦争」と位置づけ、白人の異性愛男性を中心に据えて、「男らしさが攻撃されている」と人々の不安や恐怖に訴える議論を展開している(つまり、DEIの取り組みが白人男性など特定のグループに対する差別(逆差別)につながると主張しているのである)。そして企業のDEI推進を、「“ウォーク(目覚めた)”進歩主義政策が組織の分裂を招いている」と非難し、SNSへの投稿や保守系メディアへの出演などを通して自身のメッセージを広めている(Forbes、2024年12月18日)。
さらにスターバック氏はDEIに積極的に取り組んでいる企業に対する製品購入の取りやめやサブスクリプション(定期利用)の解約などのボイコットを呼びかけたり、場合によっては特定の企業に対してネガティブキャンペーンを仕掛け、SNSで批判的なコメントを拡散したり、カスタマーサービスに苦情を訴えたりしている。
Forbesの報道によれば、スターバック氏がこれまでターゲットにした企業はアマゾン、フォード、ボーイング、クアーズ、ロウズ、ポラリス、ターゲット、ハーレー・ダビッドソン、ジャック・ダニエルズ、キャタピラーなど少なくとも17社にのぼるという。
批判をはねつけて
DEI推進を継続するコストコ
このような状況のなかで、保守派の批判をはねつけ、経営陣が自らの信念を貫き、DEIの取り組みを継続している企業もある。小売業大手のコストコやテック業界大手のアップルなどだ。
コストコは保守派シンクタンクの国立公共政策研究センター(NCPPR)から、「DEIの推進は白人、アジア系、男性または異性愛者の従業員に対する“違法な差別”につながる可能性があるため、政策の見直しを求める」という趣旨の要請を受けた後、経営陣がその取り組みについて再検討した。
その結果、DEIは従業員やサプライヤーの多様性、公平性を高める上で重要な役割を果たしていること、多様性に富む従業員は会社の商品・サービスの提供に独創性と創造性をもたらし、顧客の満足度を高め、長期的なビジネスの成功に不可欠であることなどを改めて確認した。その上で取締役会での満場一致の決議を経て、NCPPRの要請を拒否したという(Sustainability magazine、2025年1月8日)。
コストコは多様な人材を育成することで従業員の定着率と満足度を高め、顧客体験(商品やサービスを利用する際の顧客視点での体験のこと)を豊かにできると主張している。
ニューヨーク大学スターン経営大学院のアリソン・テイラー教授は同社の取り組みを「2025年に向けての勇気ある賢明な戦略」と称賛し、こう述べている。