「困難な政治的状況にどう対応するかについて、重要なことを教えてくれています。多くの企業が困難に直面して、同じ方向にハンドルを切っている(DEIを縮小・廃止している)なかで、同社の戦略(DEI推進を継続する)は競争優位性をもたらすでしょう」(同前)。
小売業界で進歩的な勢力であり続け、業界で最も高い賃金を提供し、良い評判を維持している同社は声明のなかで、「多様性は当社にとって単なる方針ではありません。多様性は私たちが日々会員(顧客)とつながり、サービスを提供する上で不可欠なものです」と改めて強調している。
コストコの他にアップルも保守派の要請を拒否し、DEIの取り組みを継続するとの立場を表明した数少ない企業の1つである。
DEIは終わったのか
専門家の見解は?
多様性推進の取り組みを縮小・廃止する企業が続出するなかで、「DEIは終わったのか?」との声も出ているが、はたしてどうなのか。
世論調査の結果を見ると、企業のDEIの取り組みに対する支持は依然として高いことがわかる。
ピュー・リサーチ・センターの最近の調査では、企業の従業員の52%が、「職場のDEI向上を重視するのは良いことだ」と答え、「良くない」(21%)、「どちらでもない」(26%)を大きく上回っている。また、米国の経済団体や労働組合などで構成される非営利の民間調査機関「カンファランスボード」の調査では、従業員の58%が「自分の職場がDEI推進のために適切な努力やリソースを費やしている」と回答したという(Forbes、2024年12月18日)。
それでは企業のDEI政策は今後どうなるのか。
インディアナ大学ケリー経営大学院の教授でDEI推進コンサルタントでもあるジュリー・クラッツ氏は、次のように予測する。
「短期的には政治的環境はスターバック氏のような保守派に有利になるでしょうが、より大きな社会情勢は依然としてDEIに好意的です。結局のところ、多様性は事実です。米国はますます多様化しており、お互いの違いを認め合うという政策は正当化されます。公平性は公正さとともにほとんどの人が望んでいます。私が思うに、短期的にはDEIという用語は変更される可能性はありますが、DEIの取り組みは継続されるでしょう」(同前)。
加えて重要な点は、企業がDEIを推進すればビジネス上のメリットになるということだ。
マッキンゼー・アンド・カンパニーのレポートによれば、多様性に富む経営陣を持つ企業は、収益性で同業他社を上回る可能性が36%高くなるという(Linkedin、2025年1月16日)。
それは前述のコストコがDEIは長期的なビジネスの成功に不可欠であると主張し、実際に小売業界で最も高い賃金を提供していることからも理解できる。