アメリカでベストセラーとなり、多くの絶賛の声を集めた『Master of Change 変わりつづける人――最新研究が実証する最強の生存戦略』がついに日本に上陸した。著者のブラッド・スタルバーグはマッキンゼー出身で、ウェルビーイング研究の第一人者。この本が指摘するのは、人生を消耗させる「思考の癖」だ。本稿では、本書の内容をベースに「他者を尊重できない人の思考の癖」を紹介する。(構成/ダイヤモンド社書籍編集局)

「他人を軽視する人」の残念な思考回路Photo: Adobe Stock

「他人を軽視する人」の残念な思考回路

「なんであの人、あんなに偉そうなんだろう……」
「自分の意見ばかり押し付けられて、うんざりする……」

 職場や友人関係の中で、こんなふうに感じたことはあるだろうか。

 自分の考えが絶対に正しいと思っていて、他人を見下すような態度を取る。そんな人と接するたびに、モヤモヤした気持ちになってしまう。

 でも、ふとした瞬間に気づくことはないだろうか。 実は、自分自身も同じような行動をとってしまっていたことに。

 多忙やストレスで余裕がなくなり、相手の話をちゃんと聞かずに意見を押し付けてしまったり、つい冷たい言葉を投げてしまったり。

 後になって「なんであんな態度をとってしまったんだろう」と悔やんだ経験は、きっと誰にでもあるはずだ。

 なぜ、私たちはときに他人を尊重できない態度をとってしまうのか。そんな「残念な思考回路」に陥らないためにはどうすればいいのか。

 スタルバーグは、話題作『Master of Change 変わりつづける人:最新研究が実証する最強の生存戦略』の中で、心理学者エーリッヒ・フロムの概念をベースに、人の生き方や価値観を2種類に分けて議論している。

 「所有志向」「存在志向」だ。

所有志向の人は、所有物で自分を定義する。だが、物や身分といったものはいつ失ってもおかしくないため、人はもろい存在になる。

(P.66)

存在志向の人は、自己の中の深い部分──たとえば、自分の本質、中核的な価値観、どんな状況であろうとも対応できる能力など──を自分のことだと認識する。

(P.67)

 所有志向の人は、自分が何を持っているかが自分のアイデンティティと強く結びついている。例えば、持ち物や収入が増えること、知識を増やし、学歴や資格、肩書を手に入れることに喜びを感じる。つまり「量」の変化を重視する生き方だ。

 一方で存在志向の人は、「何を大切に生きているか」が自分のアイデンティティの中心にある。所有物の変化よりも、内面の変化や成長に意味を見出すタイプの人間だ。言い換えれば、「質」の変化を重視する生き方である。

他人との比較をやめられない

 デジタル社会では、所有志向が強まりやすい。KPI、売上、視聴数など、あらゆるものが数値化され、結果が可視化されやすい。また、SNSを通じて簡単に他人の持ち物を目にすることができる。

 一方で、人は「量」ですべてを測ることができない。育った環境や価値観は異なるし、好みや性格も十人十色だ。

 スタルバーグは、所有志向が行き過ぎると、日常的に不安を感じやすくなったり、他人に対してネガティブな感情をぶつけやすくなることを指摘している。

所有物、アイデンティティ、仕事は失う可能性があるのだから、所有志向は本質的にもろい。何かに異常に執着すると、やがてそれに支配されるようになる。

(P.334)

 自分の持ち物は他人より多いか少ないか。他人を見て焦ったりほっとしたりしていると、自分の生き方に自信を持てない。さらに、人はそれぞれ価値観や生き方が異なるという事実を無視して、持ち物が少ない人のことを軽視してしまうのだ。

 スタルバーグは、本書の中で自身の経験や後悔を語りながら、今そのように感じている人に対し、存在志向を取り戻してほしいと訴えている。

 存在志向とは、他人と自分を比較するのではなく、自分自身の内面的な変化に焦点を当てる生き方だ。

あなたが特定の人、場所、概念、ものに過度に執着していると気づいたら、自分はこういう人間だという概念の幅を広げよう。
 

「わたしはX、Y、Zを持っている人間だ」ではなく「わたしはX、Y、Zをやる人間だ」と考えよう。

(P.334)

※本稿は『Master of Change 変わりつづける人』の内容を一部抜粋・編集したものです。