トランプ政策の矛盾は世界経済のリスク
自動車輸出国・日本の経済は一段と厳しくなる

 今後の最大の焦点は、インフレを高進させることなく、米国を製造大国として復権できるかどうかだ。

 トランプ氏が尊敬しているといわれるのが、ウィリアム・マッキンリーだ。同氏は米国の繁栄を目指して関税を重視した(マッキンリー関税法、1890年成立)。その結果、米国のインフレは急伸し、1893年、米国は景気後退と金融資産の暴落に見舞われた。

 関税率の引き上げは経済を傷つける側面も否定できない。関税を重視して米国を再び偉大にするというトランプ氏の理想の実現には相応のハードルがある。

 1月、米国の消費者物価指数は前年同月比3.0%上昇し、事前予想(2.9%)を上回った。これは2021年以来の危険な状況だと経済の専門家は指摘している。

 トランプ氏が中国に対して追加関税や一律関税を導入すると、輸入物価は一段と上昇するだろう。それは、最終的に米国の個人消費に打撃を与えることになる。

 米ピーターソン国際経済研究所の試算によると、トランプ政権の関税政策は、米国の家計に1200ドル(約18万円)の負担増をもたらすという。こうした見方が広まれば、徐々に、米国の個人消費は減少し、景気減速のリスクが浮き彫りになることも考えられる。

 一方、トランプ政権が重視する減税で、米国の国債発行は増えるだろう。債務上限や、つなぎ予算を巡る議会交渉が難航することも想定される。政策の予見性が低下すると、主要投資家はドルを長期間持ち続けることが難しくなり、ドル安の圧力が強くなるだろう。それも輸入物価の押し上げ要因になり得る。

 中期的に考えると、トランプ政策の帰結として、米国で景気が減速する一方、物価が上昇する厳しい経済環境になるリスクが想定される。その場合、トランプ氏がFRBの利上げを非難し、金融政策に介入して金融市場が混乱することも考えられる。

 だがしかし、米国以外に世界経済をけん引する国や地域は見当たらない。米国の景気減速が鮮明化すると、世界全体で景気は悪化し、資産価格に下押し圧力がかかるだろう。日本やドイツのように、自動車輸出で景気を支えている国の経済運営は一段と厳しくなる。