ふと思いあたることがあります。

 すでに述べたように、オーバードーズをくりかえす子どもたちは、最近ではデキストロメトルファン含有市販薬を好んでいます。実際、歌舞伎町トー横界隈に行くとわかりますが、路上のそこここにその市販薬の空箱──妖しい紫色の箱です──が散乱しています。

トー横に必要なのは
断じて「一斉補導」ではない

 正直、依存症専門医から見ると、なぜいま子どもたちがデキストロメトルファンに夢中になっているのか、にわかには理解しがたい点があります。従来乱用されてきた鎮咳薬や感冒薬に比べると高価なうえ、何を期待しているのか判然としません。

 旧来の乱用薬が含有するメチルエフェドリンやジヒドロコデインといった成分は、落ち込んだ気分や意欲を引っ張り上げたり、不安に脅え焦燥に悶える心を安定化させたりと、薬物への期待する効果がわかりやすいです。ところが、デキストロメトルファンの効果といえば、なんと「幻覚」です。

 一体どういうことなのでしょうか?

 ここから先は私の妄想です。もしかすると子どもたちは無意識のうちに、ネイティブ・アメリカンのペヨーテ儀式のようなコミュニティ再編を目指しているのかもしれません。それは、先日、トー横界隈を散策しながら、そこに集まる子どもたちを観察した際にふと思いついたことです。

 不思議な空間でした。明らかに市販薬過量服用による酩酊状態にある子ども、あるいは、仲間と市販薬の錠剤をシェアし合う子どもの姿をちらほら見かけました。

 しかしその一方で、子どもがしばらくそこに立っているといろんな人が声をかけてきて、仲間のネットワークがあっという間に広がっていくのです。また、10代の子どもが路上にしゃがみ込んで、ホームレスの老人と話し込む場面がちらほら目につきました。

 わが国の各地域にかつて点在していただろう、世代を超えたつながりの場でした。

 そのとき私は確信しました。トー横に必要なのは、子どもたちが安心して集える場にすることであって、まちがっても一斉補導ではないし、ましてや、芝生やベンチに据えられた「排除アート」──芝生やベンチに寝転がることを阻む「謎の突起物」、あの、感じの悪いオブジェのことです──ではない、と。