その一方でデジタル活用を通じた変革を避けてきた結果、非常に重い石を抱えることになりました。ただし、この30年居座り続けた負の遺産も、勢いづけば自分で転がり始めます。

 営業活動の変革も同じで、フィールドセールスが専門分業化の価値を理解し、「デジタルセールスから引き継ぐ新規案件の中にダイヤモンドの原石が含まれている」と認識されれば、その後の営業DXは自走していきます。

企業の変革を推進するには
全体の30%を味方につける

 重い石は、あるポイントを通過すると勢いづいて転がり始めます。そのポイントは、一般論として全体の30%を味方につけた時と言われます。実際に営業DXを推進してきた私たちの経験則では、特定の部門と組む、または特定の業界に絞り、小さなプロジェクトで営業DXをスタートするのであれば、関係者の半分を味方につけた時、会社全体に浸透させる場合は、関係者全員のうちの10%を味方にした時です。

 会社方針としてインサイドセールスを新設する場合や、営業DXを推進する場合「面白そう」「やってみたい」などと前向きに飛びついてくれることは極めて少なく、ほとんどは受動的かつ「面倒だ」と感じながら方針に従います。従来の業務の進め方に疑問を持つこともほとんどなく、他社で経験を重ねた知識豊富な強い力を外圧として加えない限り、変革の必要性にすら気づきません。

 変革のほとんどは、この状態が硬直して立ち消えになります。

 マーケティング用語で言えば、ここにキャズムがあります(図3-1)。キャズムとは、新たな商品やサービスが市場に普及していく際に、飛び越えなければならない溝のことです。

図3-1 キャズムの概要同書より転載 拡大画像表示

 組織の変革も同じで、キャズムを越えなければならず、言い換えると、失敗するプロジェクトはその手前で諦めているケースがほとんどです。