トランプ対習近平で
「台湾有事」の可能性は弱まるのか?
元陸将で陸上自衛隊東部方面総監などを歴任した渡部悦和氏は語る。
「トランプ氏とプーチン氏が接近しようと、中国とロシアの関係は別。習氏はロシアと一緒にアメリカと対峙する姿勢に変わりはありません。かつてトランプ氏が資金難だった頃、ロシアに救われたという話があります。トランプ氏はプーチン氏の前では弱い立場。プーチン氏に利用されているだけです。中国がそんなロシアと離れるはずはなく、有事の脅威は続くと見ています」
また、台湾と100キロあまりしか離れていない沖縄県与那国町の町議、嵩西茂則氏も、筆者の問いに次のように答えた。
「いわゆる台湾有事の可能性が低くなったとは思いません。台湾には世界一の半導体産業がありますが、有事の際は、ウクライナの希少鉱物と同じで、トランプ氏は取引を迫り、すんなり台湾を守るとは言わないでしょう。私は中国が香港のような形で台湾を飲み込むと予想していますが、武力行使の有無に関わらず、台湾が中国になると目の前まで迫ってくることになりますから、与那国など南西諸島の島々は危うくなると思います」
実際、昨年5月、台湾で頼清徳政権が誕生して以降、中国軍による台湾近海での演習はこれまでにない水準へと拡大している。昨年10月には台湾を包囲する演習を実施したほか、1年間で2000回以上、中国軍機を台湾防空識別圏内に侵入させている。つまり、この先も台湾や与那国島周辺では、有事に発展しかねないグレーゾーンの状況が続くということだ。
トランプ氏の暴走を
静観するしかない日本
最近になってトランプ政権は、同盟国・日本に対しても、関税引き上げをちらつかせながら「円安ドル高」の是正を求めたり、日本の防衛費をGDP比で3%超に引き上げるよう要求したりと、強い語調が目立つようになってきた。
ここまで日米関係が無難に推移しているのは、先の日米首脳会談で、石破氏がトランプ氏に対して、アメリカへの巨額の投資を約束し、5G、AI、宇宙開発、クリーンエネルギーといった先端技術への協力姿勢を明確にしたからだ。
加えて言えば、トランプ氏とゼレンスキー氏との会談決裂についても、石破氏が「やや意外な展開になったなと、やりとりを見ていてそのように思いました」と発言するなど、トランプ氏の暴走を、まるで傍観者のように静観したからである。
後者に関しては、「もっとウクライナの側に立つべき」との思いもあるが、残念ながら、中国リスクを抱える日本としては、トランプ氏が王様気取りで暴走したとしても、ときに静観し、沈黙を守ることも有効な防衛策になるのではないだろうか。
トランプ氏と習氏が超大国の元首として張り合っている間は、柳に風と受け流し、独自で備えを進め、他の友好国と連携を深めておくことが「最適解」なのかもしれない。
(政治・教育ジャーナリスト/びわこ成蹊スポーツ大学教授 清水克彦)