他方、急性心筋梗塞の発症が朝に多いことを、日本で初めて明らかにしたのは東京医科大学の山科章名誉教授です。聖路加国際病院に勤務していたころに東京都CCUネットワーク(急性心血管疾患の迅速な救急搬送と専門施設への収容を目的に、東京都が組織したネットワーク)の6787例を調査し、8時から10時に最も多いことを報告しています。
不整脈も、朝に多くみられる症状の1つです。植え込み型除細動器(ICD)を使用している患者の作動メモリー解析から、命に関わる重度の不整脈である「心室頻拍」と「心室細動」が最も多かった時刻は、10時から11時であることがわかりました。
また、脳梗塞やくも膜下出血、脳出血などの脳血管の障害や、エコノミークラス症候群も、6時から正午(12時)の時間帯に多いことが知られています。
朝はなぜ、病気になりやすい“魔”の時間なのでしょうか?
朝の時間帯は、(1)心臓を守る副交感神経の活動が急激に弱くなる、(2)心臓のはたらきを促進する交感神経の活動が高まる、(3)体全体の健康度を見守る役目を果たしているデフォルトモードネットワーク等の、脳の機能的神経ネットワークが組み替わる時間である等が、その理由と考えられています。
朝は血圧急上昇の危険あり!
血液ドロドロで血栓症リスクも
その他にも、次のような原因が報告されています。
この時間帯は1日のうちで最も血圧が高く、脈拍数も最も早く、「早朝高血圧(モーニングサージ)」(早朝の急激な血圧上昇のこと)とよばれる高血圧状態になっており、血液が最も粘っこい(ドロッとしている)といった要因も多重に関連しています。
発汗量には明瞭なリズムがあり、夜、就寝中に多いことがわかっています。そのため、汗をたくさんかいた後の早朝は血液が粘っこくなり、心臓や脳に栄養を送る血管内の血液も固まりやすくなっているのです。
交感神経の緊張の高まり(亢進)は血液の粘度を増し、血液が固まりやすくなります(血小板凝集能が高まる)。加えて、早朝は、いったん固まった血液の溶けやすさ(線溶能)が著しく低下している時間帯です。ヒトは、固まった血液を溶かす物質(t-PA)をもっていて、血液が固まるやいなや、それを溶かすことができますが、この血液の溶けやすさに関与するt-PAの活性は、午前中は低いのです。