(6)残る最後のカードが自主廃業であった。19日、長野局長は野澤正平山一證券社長に自主廃業を通告した。なお、21日、日本銀行は特融発動を決定。また、24日に山一證券は、自主廃業を対外公表した。
飛ばしがあると
会社更生法が認可されない
自主廃業、会社更生法適用、日銀特融という山一処理案について個々に見ていこう。
まず自主廃業。これは最悪のスキームと思われる。自主廃業の場合、会社更生法のような裁判所による債権保全命令が出ない。このため、債権者による取り立てに早い者勝ち競争が起き、内外の金融・証券市場で大混乱が生じ、日本発の金融恐慌へと突き進む可能性が高かった。もとより、山一證券という会社は、過去営々と築いてきた暖簾とともに消滅する。
しかし、日銀特融が発動されたため、内外の市場は救われた。特融は、山一證券の全債務を保護するという効果と投資家等に対する債務を返済するための流動性の供給(客の預かり資産は現金で顧客に返還される)という2つの効果を有していた。
次に会社更生法の適用である。これは、通常再建型と解されており、市場への負のインパクトは相対的に小さい。また、会社更生法の申立てが行われると裁判所から債権保全命令が出されるため、債権者間の早いもの勝ち競争は起きない。従って、市場の混乱も回避される。この点、自主廃業に比して、優れた処理方策と言える。
もっとも、(1)裁判所は更生計画を認可する立場にあるが飛ばし案件に認可を出せない、(2)大蔵省は大和銀行巨額損失事件(注1)の教訓から、報告を受けたら速やかに対外公表したい(タイムリー・ディスクロージャー)と思う一方、裁判所は山一證券の規模が大きく、会社更生法となると準備に時間を要するため時間が足りないといった事情がある。このため、会社更生の実現可能性は低いとみられる。
山一證券社内調査報告書によると、11月20日、山一證券の弁護士が東京地裁民事8部に赴いた。その際、会社更生について裁判官から「飛ばしがあると会社更生法は難しい」「大蔵省の強い協力がないと難しい」「26日は日数的に難しい」との非公式見解が述べられたという。
注1 1995年に発覚した大和銀行ニューヨーク支店巨額損失事件。情報の公開を遅らせたとして、米連邦政府から隠蔽を指摘され、司法取引に応じた大和銀行はアメリカから完全撤退することになった。大蔵省は発覚前に事件について報告を受けていたとされる。