「高学歴」を得ることだけじゃない
大学での学びの本質とは
合格後、すぐに学生プロレス団体UWFにメールし、入門。憧れの学生プロレスの門を叩く。10代に水泳や空手で鍛え、高校時代にスクワット500回はすでにできるようになっていた三富の身体は大学生離れしていた。練習にも基礎的なトレーニングやマット運動がないことにも疑問を持った。その後、団体の改善点は自ら提案し、変えていった。
「大学時代は、学生プロレスしかしていなかった。プロレスからすべてを学んだ」と三富は謙遜する。
しかし、よく聞くと慶應の中でも、文学部の中でも「変わり者」が集まるという映像社会学のゼミに没頭した。感情を映像で表現する技、自由に発想する力を身に着けた。
大学時代の話を聞いているうちに、彼はこう口にした。「もしかしたら、慶應で身につけたのは、ロジカルに考える力、言語化する力かもしれない。それは、今のプロレス団体運営でも、間違いなく役に立っていると思う」
慶應では、単位をとるのもそうだが、普段の学生生活においても、「ちゃらい」と言われるサークルでさえも、ロジカルに考えること、さらには自分の考えを言語化することができなければ、やっていけない。イベントをプロデュースする上でも、レスラーやスタッフに動いてもらうためにも、この力が必要なのだ。話をする上でも、イベントを進める上でも起承転結の描き方を身につけられたのは大きい。
慶應出身という学歴には注目が集まった。これまでも、多数のメディアに出演した。慶應といえば、卒業生組織に三田会がある。ただ、三田会の全面的なバックアップを受けているわけではない。ただ、勝手連的に先輩たちが、母校からプロレスラーが出たことを祝い、応援してくれている。
そんな彼が、慶應出身であることのメリットを感じることは何か。
「真っ当な知力があること。受験などの困難を乗り越えた力があること。論理的に考え、言語化できる力が身についていること。慶應で学んだ学歴によって、真っ当な努力ができることを誇れる23年間になった」
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【常見の解説】
大学で手に入れるのは、ラベルではなく、レベルである
慶應卒の中には、東大に落ちた、○○学部ではなかったなど、コンプレックスを感じている人もいるが、昔も今も、高学歴だとされる象徴だ。ただ、彼の話はその「ラベル」ではなく「レベル」の話をしている点に、好感を持った。
大学の勉強など役に立つのか、学歴とは学歴フィルターを突破するためのツールではないかなど、大学に対する不要論、無用論が飛び出す。一方、彼は「ロジカルシンキング」「言語化」という言葉を発信してくれた点に感謝する。そう、大学は、たとえ、単位をとるため、卒業するために、通っていたとしても、学びはあるのだ。
日本を代表する大企業や外資系企業に進む慶大生からすると、異色の、異質の進路に進んだ三富選手だが、実は、慶應で身につくものとは何かを証明している点に注目している。
次回は、プロレス団体経営の奮闘ぶりに迫る。
