これは山上被告が最も望んでいたことだ。つまり、誤解を恐れずに言ってしまうと、山上被告は安倍元首相を殺害することで、世論と政府を動かして「教団壊滅」という彼なりの正義を実現した「日本近代史上で最も成功したテロリスト」と言えるのだ。
では、今の政治や社会に不満や怒りを抱えて悶々としている人が、こういう「成功モデル」を目の当たりにしたらどんな行動に出るか、想像していただきたい。
「あの山上にできたんだったら、俺にもできるのではないか」と思って、自作の鉄パイプ爆弾や火炎瓶を製作したり、ナタや閃光手榴弾をネットで購入したりする者もあらわれる。人間というのは類人猿の時代から、「先に成功した仲間」のやり方を真似る生き物なのだ。
そして、この「テロの成功」に図らずもナイスアシストをしてしまったのが、他でもないテレビや新聞というマスコミだ。
「政治テロ」を誘発したマスコミ
取り返しのつかない「失態」
山上被告のように「安倍元首相は旧統一教会とズブズブだから殺すしかない」というような特定の政治勢力・政治家家への偏った思想・憎悪を抱くテロリストの主張は、世界では「無視」するのが常識だ。
例えば、アメリカでは「No Notoriety(悪名を広めるな)」という団体が発足して、その名の通り、無差別テロや拡大自殺をした人間の思想、政治的主張などにフォーカスせず、「悲劇のヒーロー」扱いしないような報道をメディアに求めている。
こういう話をすると決まって、「安倍元首相がカルト教団とズブズブなのは事実だからしょうがないだろ!」と怒る人も多いが、そのように「政治テロ」を根拠に特定の政治勢力・イデオロギーが盛り上がってしまうのが問題なので、「自制」を求めているのだ。
わかりやすいのは、トランプ米大統領が銃撃された直後、ブルームバーグに掲載された、政治コラムニストのFrank Wilkinson氏による「トランプ氏銃撃、真相の鍵は容疑者でない」(24年7月16日)というコラムだ。非常に重要な指摘なので以下に引用させていただく。