アフターコロナにおいて
利用者のニーズが多様化
以降の東海道新幹線は、約6割を占めるビジネス需要に対応するため、「多くの座席を提供し、均質でクオリティの高い輸送サービス(JR東海広報)」の実現を優先してきたが、それでも1990年からリーマン・ショック前の2007年まで、東海道新幹線の輸送効率(座席数に対する利用者数)は、ほぼ60%台後半をキープしてきた。
6割程度と思うかもしれないが、これは早朝深夜やピークと逆方向などの利用の少ない列車も含んだ数字で、コロナ前の地下鉄銀座線に匹敵するものだ。東海道新幹線は銀座線と同じくピーク時に平均3分間隔で運行している。サービスの均質化を徹底する東海道新幹線は「面白みがない」と言われがちだが、限られた設備で乗客を効率的に運ぶという点で地下鉄と同じと考えれば致し方ない話だ。
JR東海は2003年以降、「のぞみ」の増発を進めてきたが、それでも利用者の増加に追い付かなかった。車両、地上設備、オペレーションを改善することで最終的に2020年3月、「のぞみ」の運行を1時間あたり最大10本から12本に拡大し、東海道新幹線は「究極形」とも言うべき地点に到達した。
そこに訪れたのがコロナ禍だ。2020年度の輸送量(人キロ)は前年比で3分の1まで減少し、利用はコロナ前の9割程度しか回復しないとの見方もあったため、「のぞみ」12本ダイヤは「見込み違い」という評も見られた。しかし、JR東海の目的は輸送力の増加に見合った利用を得ることではなく、むしろ輸送力に余裕を持たせることにあった。
直近では輸送量はコロナ前と同等のレベルまで回復しているが、ピーク時間帯に「のぞみ」を最大毎時2本増発できるようになったことで輸送力に余裕が生まれ、効率一辺倒のサービスを見直す余地ができたというわけだ。
ただし、コロナ禍が東海道新幹線の利用形態を変えたのも事実だ。JR東海によれば、利用に占めるビジネス利用の比率は6割から5割に減少し、土休日を中心とした観光利用が増加。「プライベートでご利用になっている方が増えており、かつ、その中身も多様化、あるいは個別化している」という。