「いっぺん決めたことやろうが!」稲盛が孫にブチギレ
《「昨日の契約ですが、やっぱりおかしいと思います。破棄してもらえないでしょうか。契約書を返してもらえないでしょうか」
これに稲盛は激昂した。
「何を言うとるんや! いっぺん決めたことやろうが! 契約書をなんやと思うとるんや!」
稲盛が言うことは至極当然だ。稲盛になんの非もないことは認めざるを得ない。だが2人はもう退けなかった。
稲盛はなおも親が子をしかりつけるような勢いで2人を罵倒した。1時間近くにも及んだが、今度は稲盛が折れた。「もうええわ」とばかりに2人に契約書を返したのだった》
(杉本貴司著『孫正義 300年王国への野望』)
ひどい結末を迎えた両者だったが、稲盛、孫という日本を代表する経営者が(利益最大化という動機はありつつも)「社会を良くする」理念をいかに大事にしていたかは特筆に値するだろう。
こうした理念が現代経営においても有効であることは、経済学的にも実証されつつある。2019年に発表された実証研究『Mission of the Company, Prosocial Attitudes and Job Preferences』(マーストリヒト大学、ボン大学)によれば、企業の掲げる「使命(ミッション)」は、人材獲得と組織の競争力に直結する経済的要素である。
オランダのデルフト工科大学およびアイントホーフェン工科大学の大学院生1498人を対象とした調査では、企業がCSR(企業の社会的責任)やイノベーションといった社会的使命を掲げている場合、そうでない企業と比較して、明らかに高い職業的魅力を持つと評価された。
被験者の多くは、月給が同じであってもCSR志向の企業を選び、月200ユーロ(現在のレートで約3万2000円)分の給与を犠牲にしても構わないと判断した。イノベーション志向の企業についても、月150ユーロ(約2万4000円)の給与減を容認する傾向が見られた。