トランプ関税の影響で株価が乱高下している。新NISAを始めた人も、まだ投資を始めていない人も不安はつきない。そこで今回は、「『金持ち父さん 貧乏父さん』以来の衝撃の書!」と絶賛され、「株の買い時を考えるチャンネル」でも「お金好きな人にマジでオススメ!」と話題となっている全米ベストセラー『JUST KEEP BUYING 自動的に富が増え続ける「お金」と「時間」の法則』の著者ニック・マジューリ氏(データサイエンティスト)にインタビューした篠田尚子氏(ファンドアナリスト)が登場。篠田氏は「読むと人生が変わるお金の哲学書」と話題のベストセラー『THE ALGEBRA OF WEALTH 一生「お金」を吸い寄せる 富の方程式』著者スコット・ギャロウェイ氏のPIVOTインタビューにも成功。両者を直にインタビューした日本で唯一の人物だ。そんな篠田氏は『JUST KEEP BUYING』をどう読んだのか。不安を抱える日本人への特別寄稿第3弾をお届けする。(構成/ダイヤモンド社・寺田庸二)

FIREはもう死語? 全米屈指のデータサイエンティストが提案する新しい「経済的自立のカタチ」とは?Photo: Adobe Stock

注意すべきは「この後」

昨年までの世界的な株高傾向により、日本でも「いつの間にか」資産が増え、総資産1億円以上の「億り人」が続々誕生しているという。

確かに、ここ数年は、株高に加え円安も進行したので、米国株のインデックスファンドをコツコツ積み立てていた人でも、それなりに資産を増やすことができたはずだ。

この傾向自体は決して悪いことではない。
円の価値が低下し、また、目に見えてインフレも進む中、自分の資産が時代に取り残されないために資産の一部を投資に回すというのは、資産運用の本来の姿でもある。

注意すべきはむしろこの後だ。

一定程度資産が貯まってきたことで、自分には投資のセンスがあると「思い込み」、早期退職やFIRE(Financial Independence, Retire Early)を「変に」夢見てしまうと、せっかく順調に維持してきた資産形成の持続性が危うくなる。

現に、2025年に入り不安定な相場環境が続く中、肝を冷やしているという人もいるのではないだろうか。

FIREを推奨しない理由

『JUST KEEP BUYING 自動的に富が増え続ける「お金」と「時間」の法則』の著者であるニック・マジューリ氏は、相場環境に関係なく、FIREを目指すこと自体が現実的ではなく、推奨しないとはっきり述べている。

そもそもFIREを目指す人々は、とても厳格な節約を実践し、大きな貯金を積み上げることが求められるため、こうした過度な節約が生活の質を大きく損なう可能性があるとニック氏は指摘する。

過度に節約すると、精神的に疲れ果て、日常の楽しみを犠牲にすることも多く、長期的に見ると持続可能ではない可能性がある。

この点に関しては私も強く賛同する。

というのも、一般的に、人は収入がない状態でお金を使うことに強い抵抗感を抱くからだ。

やがてお金を使う行為そのものがストレスになり、ほんの少しの贅沢も許せないという状態に陥ってしまう。

その点では、もし心身ともに健康な状態にあるなら、社会とのつながりを一定程度保ちつつ、最低限度の収入を得ることを目指したほうが人間的な生活を送ることができるだろう。

以前の連載「【つい自分を責めてしまう人へ】実は使う人ほど貯められる! 誰でも罪悪感なく「散財」できるシンプルなルールとは?」でも触れたとおり、お金を使う行為は、お金を貯めたり増やしたりすることより人間性が表れる。
社会経験を積むことで培われる面もあるため、お金の増やし方だけでなく、「使い方」についても一定の自信がないとやはりFIREは難しいだろう。

ニック氏からの警告

また、ニック氏は「仕事を辞めて早期に引退することが必ずしも幸せにつながるとは限らない」とも警告している。

仕事を通じて自己実現や社会的つながりを得ている人たちにとって、早期の引退は逆にストレスや孤独感を引き起こす可能性があるからだ。

一方、なかなか自分に合う仕事がわからないという人もいる。
あるいは、仕事で過度なストレスを溜めるくらいなら、いっそのことFIREを目指したほうが心身ともに健康になれるのでは? という意見もあろう。

そこで、こうした悩みに対するヒントや、仕事の考え方について、インタビューの際にニック氏に聞いてみた。

得意で楽しいと思えることを続けよう

ニック氏は、
ウソと思うかもしれないが、自分が得意で少しでも楽しいと思えることを続けていれば、仕事につながる可能性が高い
と語った。

ニック氏自身、7年間続けてきたブログの投稿が現在の仕事につながっており、インタビューの際も、
「日本でたくさんの人が自分の本を手に取ってくれていること、今こうして日本に来ていることがまだ信じられない」
と興奮気味に話していた。

そして現在も、気持ちは7年前から何も変わらず、ブログ投稿を楽しみながら続けているとも話してくれた。

ニック・マジューリとスコット・ギャロウェイの共通点

夢を追うより、少しでも得意なことを見つけ、スキルを磨き、努力を続けるというアプローチは、後日インタビューを行ったベストセラー『THE ALGEBRA OF WEALTH 一生「お金」を吸い寄せる 富の方程式』の著者スコット・ギャロウェイ氏も強く推奨していた。

自分の才能を最大限に活かすことで、バランスの取れたライフスタイルを維持することができ、長期的な富の構築につながるというわけだ。

こうしたリタイアメントの考えが根底にあったうえで、ニック氏が提唱するのが、「穏やか」に経済的自立を実現する「Just Keep Buying」のアプローチそのものである。

ニック氏は、定期的に投資を続け、時間をかけて富を築くことで、比較的「穏やか」に財務的な自由を得ることができると述べている。

この方法であれば、FIREのように極端な節約や過剰な自己犠牲を払う必要もない。

長期的な投資計画を立て、「複利の力」を利用して富を築くことが、より現実的で持続可能な方法であり、将来的な経済的自由につながるのだ。ぜひあなたも本書を参考に実現してみてほしい。

(本稿は、『JUST KEEP BUYING 自動的に富が増え続ける「お金」と「時間」の法則』に関する書き下ろし記事です。)

【執筆者プロフィール】
篠田尚子(しのだ・しょうこ) 

ファンドアナリスト。CFP®、1級FP技能士
日本で数少ないファンドアナリスト兼FPとして、資産形成の初歩的な解説から具体的な商品の提案に至るまで幅広くカバー。