とはいえ、他に妙案があるわけではないし、中国産業やロシア産業と一緒に仕事をして、うまくいった会社なんか聞いたことがない。どっちの会社も最初は上手いことを言って、ウォッカや白酒(パイチュウ)を乾杯(カンペイ)しているうちに、秘密技術や特許を盗み取るのが得意な会社ばかりだ。

 米国通の役員オノデラは「トランプは、人を試す」という持論の持ち主で、「相手はキャッシュバックを多額に要求すると言っておいて、いきなり猶予期間を90日に延長すると言い出す輩だ。とりあえず、どんな態度に出るか、様子を見ているだけで、実は各国の本音を見ているだけかもしれない」と言い出した。

中国産業やロシア産業と
組んでもリスクが高いだけ

 確かに、宿敵中国産業以外は、キャッシュバック制度は90日延長。本来、何十年もいがみ合ってきたロシア産業にはキャッシュバックの要求もしないまま、ロシア産業が強引に合併しようとしているウクライナホールディングスを、双方でぶん捕ろうと話し合っている気配さえある。

 イシバ社長の専門は、日本の地方経済と企業防衛の危機管理。しかし、このトランプという男、従来の危機管理理論などまったく通用しないし、コンプライアンスも無視。企業間契約も平気で破り、強い会社が好きなことをやって米国産業が繁栄すれば、世界は繁栄するものだと思い込んでしまっている。

 取り巻きも、ほとんどが生粋のアメリカ産業出身者ではなく途中入社組だから、とにかく利益さえとれれば、会社の人間が半分になろうと気にしない男たちなのだ。

 甲論乙駁、全然、話が終わらないまま時間だけが過ぎていく。そこに、ボルサリーノの帽子をいつもの調子で斜めにかぶった老人が顔を出した。

「みんな、不景気な面しているなあ。トランプが社長に就任しそうだとわかっていたときから、この程度のことは覚悟してたじゃないか。もうマスコミの誰もウラガネなんか興味ない。統一協会問題も選択的夫婦別姓問題も株主総会の大問題になるはずだったのに、マスコミも国民もアメリカ産業のことばかり。ここは、日本自車工の経営陣が活躍しているように見せて、イシバ体制の努力を社員に見せるチャンスじゃないの?」