マスクは「信用できる人物」なのか?

ハロウィーンパーティを失礼して執務室に戻るとき、ヨエルと少しだけメッセージをやりとりしたところ、彼は、マスクがどうするのか、しばらく様子を見るつもりのようだ。

今回の移行でツイッターがおかしくならないように守るのが自分の仕事だと思っているのかもしれない。

あるいは、マスクは実業家として成功しているわけで、であれば、ヘイトスピーチやアダルトコンテンツの掃きだめに出稿したい大手広告主などいないことも理解してくれるはずだと考えているのかもしれない。

そう言われても、法務のトップだった人物が、たいしたことではないかのようにとり繕いながら、警備員に付き添われて本社ビルから追い出されるのを見てしまうと、マスクがなにをするのか、なにを考えているのか、正しく予想できる人などいないのではないかとも思ってしまう。

マスクの行動は誰も読めない

なにをするかわからない証拠ならある。いや、もしかすると精神的におかしいのかもしれないと思うほどの証拠がある。

いったんは技術者にコードの印刷を命じたのに、すぐ撤回した件だ―コードは社外秘だから、シュレッダーにかけさせたのは、むしろまっとうだと言えるわけだが。

ボディガードをいつも従えているのもどうなのかと思わないではない。こちらも、世界一の金持ちともなれば、そんなものなのかもしれないが。

会議も禁止、集まりもダメ──「2人以上集まるな」指令の異様さ

ただ、舎弟クラスから、技術者向けのおかしなメール以外に、今後は経営陣の許可なく社員が集まることを禁じるとの布告もなされている。2~3人を超える人数が集まるのはまかりならんというのだ。

暴動かなにかが起きるかもしれないとでも思っているのだろうか。そのあたり、ジェシカにはなにもわからなかった。

さらに言えば、新製品の導入や大規模な改修は報告する義務があると米連邦通信委員会に言われた際、マスクの顧問弁護士、スパイロが「マスクはロケットを宇宙に打ち上げている男だ。通信委員会など恐れていない」と返したことは知っていた。

通信委員会を恐れてはいないのかもしれない。

しかし、警備員が護送する形で古参の人間を本社から追い出したり、文書をシュレッダーにかけろと技術者に命じたり、ボディガードを雇ったり、まだクビにしていないツイープスが勝手に集まることを禁じたりするのは、なにかを恐れている証拠に思えてならない。

(本稿は『Breaking Twitter イーロン・マスク 史上最悪の企業買収』から本文を一部抜粋、再編集したものです)