2023年11月には、ガザ情勢が飛び火した紅海で日本郵船の自動車輸送船がイエメンの反政府武装組織フーシ派に拿捕(だほ)され、乗組員25名が拘束された(2025年1月解放)。フーシ派による紅海を通航する船舶への襲撃が続き、これに米英軍がミサイル攻撃などで反撃したため、欧州からスエズ運河・紅海を経てアジアへ向かう航路は安全な運航が不可能になった。

 日本貿易振興機構(ジェトロ)によれば、同航路は世界の貿易量の約12%、欧州・アジア間のコンテナ輸送の3分の1が航行する要所だ。日本郵船、商船三井、川崎汽船などの日欧の海運会社は、紅海の通航を停止し、大きく迂回する喜望峰ルートに変更した。これにより、欧州・アジア間の運航期間は2、3週間延び、運賃も大幅に上昇した。これは、日本国内で欧州産品の値上げの一因となった。

中国の台湾侵攻で
世界に1兆ドルの損失

 様々なリスクの中で特に日本企業が注目しているのは、台湾有事だ。台湾が世界の大供給拠点である半導体の供給停止を心配する企業は多い。2023年5月の議会証言で、アヴリル・ヘインズ米国家情報長官(当時)は、中国の台湾侵攻によってTSMCの先端半導体生産が停止した場合、最初の数年間は年間6000億ドルから1兆ドルの損失を世界経済に与えるとの試算を示した。

 台湾侵攻に至らずとも、中国が軍事的・経済的威圧による「強制的平和統一」を目指す中で台湾海峡が封鎖されれば、日本をはじめとする世界の物流に甚大な悪影響が及ぶ。台湾で頼清徳総統が就任した2024年5月以降、中国人民解放軍が台湾を包囲する軍事演習を繰り返すなど、中国による台湾への軍事的な圧力も強まっている。

 さらに、こうしたサプライチェーンの混乱が食料やエネルギー価格の高騰を招き、新興国や途上国の政情不安につながることも少なくない。ロシアのウクライナ侵攻後の小麦などの価格高騰は、中東・アフリカの一部諸国で人々の生活に深刻な危機をもたらした。国民の生活苦は政府への批判となり、政情不安を招く。それは時に武力衝突にも至る。また、苦境から逃れるために移民や難民として人々が周辺国へ流れ込むと、それが受け入れ国で政治問題となり、国内の分断が深まるおそれもある。こうした連鎖がさらなるリスクを生じさせる。