特に対中依存度の高い日本にとっては、これは重要な課題だ。その事例としてよく取り上げられるのが、2010年9月に起きた尖閣諸島沖での中国漁船衝突事件に端を発した中国による対日レアアース輸出の「停滞」である。中国政府は対日禁輸措置を否定したが、実際に対日輸出は大きく減少し、日本では事件に対する中国の報復措置だとみられた。

 当時、日本のレアアース輸入の対中依存度は約9割であり、その用途の広さから日本国内での関連産業への影響が懸念された。「停滞」は2カ月ほどで解消されたが、事件前からの中国による世界向けのレアアース輸出制限の問題は残った。その後、同措置を問題視した日米EUがWTOに申し立て、2014年8月に中国の敗訴が確定し、2015年5月に中国が措置を撤回するという経緯をたどった。

対中依存度の引き下げは
日本の国益に直結する

 この問題は、経済安保を考える上で多くの示唆を残したが、特定国への過度の依存の危険性を白日の下にさらした。日本は本件をきっかけに、レアアースの調達先の多様化を図った結果、対中依存度は約6割まで低下した。また、レアアースの使用量削減やリサイクルも進めてきた。

書影『ビジネスと地政学・経済安全保障』(日経BP)『ビジネスと地政学・経済安全保障』(日経BP)
羽生田慶介 著

 最近では、東京電力福島第1原子力発電所の多核種除去設備(ALPS)処理水の海洋放出を巡り、中国は2023年8月に日本からの水産物輸入を禁止した。日本はホタテなどの輸出で大きな打撃を受けた。つまり、輸入だけでなく輸出でも、対中依存度を引き下げ、販売先を多様化するためのサプライチェーンの再編が必要ということだ。

 日本の場合、対中依存度の高い品目が多いので、最大の課題は対中依存度の引き下げだが、中国に限らず、特定国への過度の依存はリスクとなる。調達先や市場の多様化を図るためのサプライチェーンの再編が重要なのは、これらの例から明らかだ。

 また、中国によるレアアース輸出制限が、中国への技術移転につながったと指摘されている。ネオジム磁石を製造する日本企業が原料の安定調達のため、中国企業との合弁で現地生産を始めた。これによって、中国企業の高性能磁石の製造技術が向上し、日本企業の競争力が低下したといわれている。サプライチェーンの再編に際しては、技術流出リスクの検討も欠かせない。