考えを巡らせる中で、母の顔も浮かんだ。母と父は正式な夫婦ではない。つまり福島一族の者ではない。「副社長がお母さんの旧姓だったらよかったのにね」という、冗談とも本気ともつかない意見も出た。刻一刻と迫る投票期限を前に、我々は泥沼にはまり込んでいた。
重たい空気が立ち込めるなか、突然、渡辺先生がこう切り出した。
「どうですか、私たちが出資しますか?」
それはあまりにも唐突な一言だった。
「白井先生、どうですか?」
急に振られた白井先生は一瞬、目を丸くして驚いた様子だったが、即座に「いいですよ、やりましょう」と返した。川原先生も「僕もいいよ」と続いた。
株主になる。それは責任制限のある社外取締役になるのとは訳が違う。にもかかわらず、3人の先生たちはポケットマネーから身を削って投資してくれるというのだ。
紙くずになるかもしれぬ
株式を弁護士3人で持つ
「3人で、3社の株式を33%ずつ持ち合いましょう。そうすれば副社長も安心でしょ」
渡辺先生は軽く笑みを浮かべてこう続けた。
「これは副社長を信頼してのことだからね」
この困難な状況において、誰がこんなことを予想できただろうか。弁済が滞って破産に移行でもしようものなら、株式は紙くずになってしまう。それなのに……。信じられなかった。
そして川原先生は「委員会での状況をもっと詳しく知りたい。誰が反対しているのか。何が本当のネックになっているのか。状況を把握した上で、打てる手はすべて打っておきたい」と言った。また、内部調査委員長および社外取締役に、川原先生にとって検察時代から旧知の仲である則定弁護士(編集部注/則定衛氏)を迎えようと提案した。則定先生は東京高検検事長という経歴を持つ超大物の弁護士だった。「この人選を聞けば我々の本気も伝わり、監査委員会も納得するよ」とのことだった。