「身体やメンタルの不調、社内の人間関係のトラブルなど、何か深い事情があるかもしれません。B課長にはAさんの様子を観察しつつ、本人が自分のことを話しやすい雰囲気を作るなど、指導に対するアドバイスをするといいでしょう」
D社労士からアドバイスを受けたC部長は、翌日Aを呼び、欠勤の理由が不明なので有休への振替はしないこと、欠勤扱いの場合、就業規則により給料から欠勤分の給料を差し引くことを説明した。Aはこれを承知したが、欠勤理由はやはり明かさなかった。C部長はAに、労働契約違反による処分対象になる可能性があることなどを話し、最後に「困ったことがあるならB課長に相談してごらん。彼は面倒見がいいから君の悩みをよく聞いてくれるはずだよ」と付け加えた。B課長にはD社労士からアドバイスを受けた内容をそのまま伝えた。
思いがけないところで、思いがけない人に遭遇
金曜日の夜。Aは同僚と居酒屋で盛り上がった後、一人でカフェに入った。ホットコーヒーを手に席に着くと、すぐにタブレットを取り出し、ゲームのスタンバイを始めた。
「あと10分で夜の9時。伝説の勇者が現れる時間だ……あれ?」
ふと隣の席に目を移したAは、タブレット画面を見つめ一心不乱に指を動かしているB課長を発見した。
「課長、何してるんですか?」
声をかけたと同時にタブレットの画面をのぞき込むと、そこに映っていたのは間違いなく……。
「伝説の勇者って、課長!?」
Aの叫び声に顔を上げたB課長は手を止めて、かすかな笑みを浮かべた。
「伝説の勇者を知っているとは。まさかA君の欠勤理由は、このゲームのやりすぎ?」
Aは下を向いた。
「毎日夜遅くまで対戦するから、朝起きられない。図星だろ?」
「すみません。でも俺、課長……いえ、勇者様をとても尊敬しています。どうしたら、最高レベルに君臨している勇者様みたいに強くなれるのか、知りたいです」
「それは無理。でも、他の手を使って簡単にレベルアップする方法なら教えてもいいよ」
「お願いします。チームの仲間も喜びます」
「ただし来週から休まないで会社に来ること。ゲームのやりすぎで仕事を休むヤツなんかには教えない。わかった?」
「はい!勇者様の命令には従います」
「上司の言うことは聞かなくて勇者ならOKとはあきれたけど、来週からはみっちり仕事を教えてやろう。そうだ、C部長にも事の顛末を報告しておかなくっちゃ」B課長は心の中でそっとつぶやいた。